短編小説 | ナノ


「あぁ、困った」


妙に演技臭い声で、目の前までやって来たクロロに目をやると、彼はスーツの上に羽織った黒いコートの襟元をぴらりと広げてばっさばさと揺すった。

頭に?が浮かんだ私が口を挟もうとした次の瞬間、ソレらは、クロロのコートの内ポケットから踊るように次々と飛び出し、ころころと机の上に散らばっていった。

ソレら、とは甘い香りを放ち、色とりどりのリボンで可愛らしくラッピングされた小さな箱達。時期的に考えて中身はあれしかない。そう、チョコレートである。


「困ったよ…、モテすぎて」

ふう、とため息を吐いたクロロに言い様のない苛立ちを感じたので、それを無視して読んでいた本に視線を戻した。


「おい、無視すんな」

「うざったい」

「待て、本題はここからだ」


眉を寄せて下からクロロを睨むように目を上げると、いかにも真剣な顔をして、わざと重々しくこう言った。


「本命チョコを貰っていない」

「はあ?」

「ゆめこからチョコレートを貰っていないと言っているんだ。曲がりなりにも彼女だろう!?分かってるんだ、お前がツンデレだってことは…!」
馬鹿みたいに捲し立てるクロロを見て頭痛を覚えた私は、机に広げていた本をパタリと閉じて立ち上がった。てゆうか曲がりなりにもって普通本人に言うか。


「おい待て。…本命チョコを貰っていない可哀想な俺。」

「…ねぇクロロ、その可愛いチョコレートは誰に貰ったの?」


ふう、とため息を一つ吐いて、依然テーブルに転がったままの小箱を指差した。


「なんだヤキモチか…?しょうがない奴だ、モテすぎる俺と付き合っている割に可愛いこと言うんだな」

「……」

「これとこれはだな、アジトを出てすぐのとこに置いてあった。可愛いくクロロさんへ、とのメッセージ付きだ。さらにこれは駅前で見知らぬギャルに貰った。そんでこれは電車の中でJKに、これは喫茶店のウエイトレス、そんでもってこれは……」



「……ほんとばかだよねえ。」

思わずポロリと漏れた本音には、間違いなく愛情が込もっているのだ。私は上着のポケットから小さな小箱を取り出し、クロロの目の前に置いた。


「ほら、本命チョコレート」


その小箱とは、今しがたクロロのコートから飛び出して、テーブルの上に転がっているそれらと同じサイズで、更には同じリボン。

「な、」

言葉を遮られたクロロは、目の前に並ぶ色違いの小箱達を驚きをもって見つめている。


「開けてごらんなさい」


にこりと笑ってそう言うと、クロロは不思議そうな顔を見せながらも箱に手を伸ばし、順番に開いていった。
箱の中には可愛らしい一口サイズの四角い生チョコが1つずつ入っていた。

そのチョコレートにはご丁寧に一つづつチョコペンシルで、何か文字が書いてある。

全ての箱を開き終わり、それらを一列に並べてみて、クロロは驚愕した。


「これは…!」


その表情を見て私は満足気に微笑むと、こう言い放ち部屋を後にした。


「クロロってば、彼女の変装も見破れないの?」






呆然としたまま立ち尽くすクロロの目線の先には、一列に並べられた可愛いチョコレートの小箱達。そこに並ぶ文字はこうだった。



『ク』『ロ』『ロ』『愛』『し』『て』『る』



クロロ=ルシルフルは、してやられたとばかりにがっくりと肩を落とした。

0214発想の勝利






*前|→
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -