短編小説 | ナノ


なぜなぜなぜなぜなぜなのだ。
某ぽにょの歌の子のCMではないが、そんなフレーズが頭の中に流れた。

カマキリがいる。


電車の中だ。なぜ。

左斜め前の、ボックス席。その背もたれの上に、緑の彼。触覚を震わせながら両手を勇ましく掲げ、彼はそこに君臨していた。

快速のため、30分以上はドアが開くことのないこの電車。Hey,you!いつからそこに?

ちら、と周りを見渡すと周りの乗客は携帯や文庫本を片手に自分worldに入っている。どうやら彼に気づいていないようだ。

ところが、私から見て、そのカマキリの向こう側に座っていた青年ただ一人が、緑の彼をガン見していた。綺麗な金髪に、エメラルドグリーンの瞳が印象的なイケメンさん。

(私以外にも気づいてる人、いたのね)


何となく気になって、私ももう一度緑君に目を移す。相変わらず全身をぷるぷるさせながらそこに君臨し続ける彼。
一番近くに座っている赤シートでテスト勉強中の少年は下を向いたままで、緑君に気づく様子はない。…このまま少年の持つ本の上に落ちたら最高にウケる。


「(おっと)」
 
緑君をガン見してたら、いつの間にか金髪のイケメンと目が合った。緑君を中心に挟んで見つめ合う私たち。そしてやがてまた視点は緑君に。

綺麗なエメラルドグリーンの瞳が、緑君の鮮やかな黄緑と被って幻想的だと思った。とか、言ってみる。カマキリごときにw


いつの間にか、私の降りる駅になってしまい、私はゆっくりと立ち上がった。試験勉強少年も一緒に立ち上がったので、フラグwと、少し期待したが、とくに面白いこともなく、彼は足早に去っていった。相変わらず緑君はプルプルプルプル。…あーあ。私も諦めて帰ろ。


電車から降りる時、禿げ頭の中年男性と入れ違いになる。なんだか妙な胸騒ぎがして、私はホームに残って、車内の男性を目で追った。



「よっこらせ!」

「……(ぶ)!!!」


期待通りの展開に思わず心の中で吹いた。ドカっ!と大胆に座席に腰かけた男性。背もたれとちょうど同じラインに頭が来てて、良い感じに緑君の橋に。おっさん、そこ、頭上注意ですよwおっさんがジャンプを読み始めたころ、電車も発車して行ったので、私は緑君とおっさんの最後を見届けることができなかったが、小さな笑いを提供してくれた緑君、試験勉強少年、おっさんに心の中で感謝をして、後ろを振り返った。



「わっ!!!」

「あ、ごめんね驚かせて。俺もカマキリの最後を見届けたくて」



なぜ今まで気付かなかったのか、すぐ真後ろにエメラルドグリーンの瞳のイケメン。かなりびびった。




「カwマwキwリwwめっちゃウケましたねww」

「そっちのアングルだと、試験勉強中の少年がいたからなおウケただろうね。」

「えぇ、落ちればいいのにと心の中で念じておりました。」


「はは、君面白いね。良かったらこの後食事でもどう?」


「は。」


イケメンにナンパされました。
ありがとう、カマキリ、試験勉強少年、おっさん。私はもう一度心の中でお礼を述べた。







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