勇気ある自己紹介
「て言うかサ、今日の昼間の話なんだケド」
 
と、及川が唐突に切り出した帰り道。
今日の昼間と言われて、思い当たる話は一つしかない。伊織と松川が付き合っている、と言うデマの事だろう。
 
「それが、どうかしたのか?」
 
至極どうでもよさそうに、岩泉が訊ねる。

「いや、似たようなコト、俺も聞かれたから」
「へー……。何て?」

こちらもまた、至極どうでもよさそうに、松川が聞く。花巻と伊織に至っては、完全無視で、今日出た課題の話をしている。

「皆、もっと俺の話に興味もってよ!」
「うるせーな。聞いてやっから、とっとと話せ、グズ川」
「岩ちゃん、悪口よくない! 全く……。でね、その聞かれたことなんだけど、“花巻くんと菅原さんって、付き合ってるの?”だって!」
 
嬉々として報告する及川に、「! ……へ〜」と、驚きつつも、どこか楽しげな花巻。その背中に、小さな拳を一つお見舞いしてから、伊織が、及川へ詰め寄った。
 
「どういうこと!! なんで、そんな噂ばっかり流れてんの!?」
「伊織ちゃん、顔怖い! ……噂が流れてるのは、伊織ちゃんが名前呼びされてる上に、俺らと仲いいからじゃないの? 昼間、マッキーも、言ってたデショ」
 
「あんたらが、私の事名前なんかで、呼ぶから……!」ポツリと呟いた伊織に、岩泉が、すかさず反論する。
 
「一年時の自己紹介で、名前で呼ぶように言ったのは伊織だろ」
「あ〜……、あれな。衝撃的すぎて、今でも覚えてるわ。“私は、ある人を負かしたくて、バレー部に入部を決めました。正直、バレーは嫌いです。これからよろしくお願いします。あと、私の事は、名前呼びでお願いします。名字で呼ばれても、返事しませんから”だろ?」
 
ニヤニヤと楽しそうに言う花巻を、伊織が睨みつける。
 
「うるさいな。その時は、ほんとにバレーが嫌いだったの! それに、こーちゃ……兄貴と同じ名字ってのも、嫌で仕方なかったの!」
 「そのときはってことは、今はバレーも、『こーちゃん』も大好きなんだなー」

松川にそう言われ、伊織は、顔を真っ赤にしながら、否定する。

「違うもん! 確かにバレーも、こーちゃ……兄貴も、昔ほど嫌いじゃないけど、大好きでもないし!」
「へー、そっかそっか」
「はいはい」
「わかったわかった」
「…………」

四人が四人とも、それぞれの反応を返したものの、それは、似たり寄ったりで。
伊織の怒りに、火をつけることになるのだが、いつもの事なので、誰も気にしない。
しばらく騒ぎながら一緒に歩き、そして、五人は、それぞれの帰路につくのだった。



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