噂話はお好き?
「おーい! 伊織ちゃーん!! ごはん食べに行こ」

廊下に響き渡る、学校のアイドルの声。
何度言っても、学習しない彼に頭が痛くなる。仮にも、学校のアイドルが、女子を大声張り上げて呼べば――しかも、名前呼び――、否応なしにとんでくる、嫉妬やら、羨望やらの視線の嵐。

(いい加減にしてくれないかな……)

ガタリとイスを鳴らしながら、机に掛けていたお弁当箱と水筒を手早くまとめ、学校のアイドル……もとい、及川の元へ行く。

「待たせてごめん。今日は、及川だけ?」
「うん。購買行くのは、俺だけだったから。皆、先に待ってる」

他愛のない話をしながら、屋上へ向かう。途中、いたるところから浴びせられる視線には、辟易するほかない。
屋上に着くと、及川の言葉通り、いつもの三人……青葉城西男子バレーボール部三年がいた。

「おう」
「おーっす」
「よお」

上から順に、岩泉、花巻、松川だ。挨拶とも呼べぬ挨拶を済まし、皆、昼食を広げ始める。

「あっ、伊織ちゃんの卵焼き美味しそう! もーらいっ」

及川の一言により、皆が伊織のお弁当箱に群がってくる。

「そういえば、今日、女子が話してたんだけどサ」

伊織の卵焼きを摘まみながら、花巻が言う。皆それぞれの反応を返しつつも、花巻の言葉の続きを待つ。

「松と伊織って、付きあってんの?」
「はあっ!? 何言ってんの、花巻!!」
「え、ナニソレ。花、詳しく」

松川は、興味津々といった様子で続きを促す。無反応の岩泉も、気にはなっているようで、咀嚼をしたまま、花巻から目線を外さない。当の伊織はというと、顔を真っ赤にしながら反応し、及川は、不思議そうにしている。

「何で、まっつんと伊織ちゃん?」
「そうよ! なんっで、こんなのと!」

「伊織、ひでぇ」と言いながら、パンを咀嚼する松川を無視して、岩泉が訊ねる。

「で、何で伊織と松川なんだよ」
「なんか、松が、やたらと伊織と仲いい上に、名前呼びだかららしい」
「へー……。それで? 実際のところ、どうなの?」

ニヤニヤと、楽しそうに聞いてくる及川を睨みつけながら、「逆に聞くけど、あると思う?」と伊織が言う。

「まあ、そりゃそうだよな」
と、納得する岩泉に続いて、これまたニヤニヤと、花巻が同調する。

「なんてったって、素敵なお兄ちゃんがいるんだもんな」
「あぁ〜……、俺は、眼中にないと」
「ちょ、こーちゃ……兄貴はそんなんじゃないし! あんたたちが、眼中にないのは事実だけど!」
「伊織ちゃん、ひどッ……。てか、今こーちゃんって……」

言いかけた及川に、小さな掌が飛んでくる。大きくスイングされたそれは、見事に及川の頭をとらえた。

「いった〜……。伊織ちゃんってば、オンナノコなんだから、暴力はダメだよ〜」
「うるさい」
「なんで!?」

そんな二人の様子を見て、ケタケタ笑う花巻に松川。呆れたように(と言うか、実際呆れている)、おにぎりをほおばる岩泉。
青葉城西は今日も変わらず、和やかな日々を送っている。



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テーマ「人外ファンタジー」
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