序章
あるところに、それはそれは大層仲のいい双子がいました。兄である孝支は、心優しく、面倒見の良い少年で、妹のことを大切に想っていました。妹である伊織は、甘えたで、お兄ちゃんっ子。少々意地っ張りでしたが、もちろん、兄のことを大切に想っていました。
ある時孝支は、バレーボールに出会いました。それからと言うもの、朝練のために早くに家を出、帰宅時刻も遅くなっていきました。伊織とは、生活の時間がずれ、徐々に話す機会が減っていきました。
伊織は、兄が頑張っているのだから、応援しよう。と心に決めました。話したい。遊びたい。構って欲しい。そう思っても、我慢しました。兄の邪魔になりたくなかったからです。孝支は、自分に絡んで来なくなった伊織を不思議に思いましたが、バレーボールに夢中で、伊織に構う余裕もありませんでした。
しかし、我慢にも、限界と言うものがありました。いつからか、伊織は、孝支を見るたびに、喧嘩を売るようになりました。
そして、孝支が、バレーボールを始めてから、二年が過ぎようとした頃。その時には、伊織はバレーボールも孝支も、大嫌いになっていました。大好きなお兄ちゃんを、バレーボールに奪われてしまった。そんな気分でした。
我慢の限界を迎えた伊織は、孝支にバレーボールで勝てば、また自分に目を向けてくれるのでは。そう考えるようになりました。しかし、自分は女で、孝支は男。さらには、二年のハンデもある。伊織が、天才でもない限り、並大抵の努力では、勝てないでしょう。
そこで伊織は、思いつきました。バレーボールの強豪校に行き、そこでマネージャーをすれば良いのではないかと。競技に参加できなくとも、マネージャーとして、部活を支えることは出来ます。自分が支えたチームが、孝支のチームに勝つ。これだって、立派な勝利と言えるでしょう。
その日から、伊織は、大嫌いなバレーボールについて、こっそり調べ始めました。彼女が、バレーボールを嫌っているのは、家族皆が知っていることです。バレてしまえば、きっと何か言われるでしょう。
それから、一年後。孝支は烏野へ、伊織は青葉城西へと進学しました。
本当は白鳥沢へ行きたかったけれど、伊織の成績では難しかったので、やめました。
高校生になって、余計に二人の生活時間が合わなくなりました。しかし、伊織は、寂しくありませんでした。実際に見てみると、思ったよりも面白かったのです。バレーボールという競技が。
孝支が、夢中になるのもわかります。自分だって、いつの間にかバレーボールの虜でした。意地を張って孝支に突っかかってばかりいた自分が、恥ずかしくなりました。謝りたい、と思いました。でも、そこは意地っ張りの伊織です。素直に謝るなんて芸当、できるわけがありません。
それから二年間、伊織は、未だに謝ることができていません。それどころか、意地を張るあまりに、喧嘩を売ることすらやめられません。
一体、いつになったら元の仲良しな双子に戻ることができるのでしょう? あとは、伊織が素直になればいいだけの話なのですが。
これは、そんな双子の物語。




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -