感情的に八つ当たり
烏野との練習試合の結果は、負けだった。正セッターじゃなかったにしても、まさか負けてしまうとは……。なんてことは、思わない。練習試合が決まった日から今日まで、対戦校のマネージャーである伊織を見る度にニヤニヤし、今朝なんて「今日、楽しみだな」とニンマリ笑いながら家を出て行った孝支。――ちなみに、孝支に対して、伊織は素っ気ない返事しかできていない。
そんな孝支を毎日見ていたのだから、何かあるんだろうな、という心の準備はある程度できる訳で。(準備してたとはいえ、あの速攻には驚いたのだが)何と言うか、本当によく分からない試合だったな、というのが感想である。
さて、今日の感想はこのくらいにして。そろそろ片付け始めなければ。
そう思い立ち、スクイズを持って体育館の外に出ると、そこには烏野の天才一年セッターが。孝支のことを思い出してしまい、思わず立ち止まると影山は不思議そうに首を傾げる。

「あっ……えっと……」

目がバッチリ合ってしまいたじろぐと、影山は「スガさんの……妹さん……?」と呟く。

「あ、そうです。そちらの菅原孝支の双子の妹で、菅原伊織といいます。よろしくお願いします」

言い終えてからぺこりと頭を下げると、影山も「影山飛雄です、よろしくお願いします」と頭を下げる。
さて、ここで立ち去ってもいいのだろうか。一応話は終わっているのだが、何と言うか、微妙な気まずさがあたりに漂っている。

(何か……何か話題……? でも……)

少し迷ったものの、とりあえず話題を提示してみる。「あの速攻、驚きました」と。影山は「うっす」としか答えず、余計に気まずくなった気がした。

(どうしよ、私の話題の振り方まずかった!? あとは共通の話題なんてこーちゃんかバレーくらいしか……。そもそも、こーちゃんの何を話せばいいの……!?)

一人テンパっていると、影山がまたまた不思議そうに首を傾げる。どうにかしなくては、その一心で口を開くと、そこからはロクな言葉が出てこなかった。

「あ、あの……えっと……こ、今回は、うちがセッターを指名しちゃったから、自動的に影山くん……? だよね? あの、影山くんがセッターとして試合出てたけど! でも、こーちゃ……あ、えっと、兄も頑張ってるし、次からもおんなじように試合に出れるなんて、思わないでね……!?」

一息ついても、全く口が止まらない。

「こ、兄だって、バレーはすごく大好きだし」

それも、伊織が嫉妬してしまうほどに。

「だから、えっと! あの……だから! うちからの指名ごときで、こーちゃんに勝った気にならないでね!!」

そして、バレーボールに兄を奪われたと思い、嫉妬に狂うほど兄が大好きな伊織だ。そんな彼女が、今回の練習試合をよく思っているわけが無い。
近くで試合中の兄を見たかった、そんな想いもあった。セッターを指名したせいで、台無しになったが。
兄の活躍を見れるかもしれない、そんな期待もあった。セッターを指名したせいで、台無しになったが。
そんなこんなで溜まっていた鬱憤が、テンパった末、影山に対して爆発するというとんでもないこの状況。影山は急に八つ当たりされ、いい迷惑である。本人が気にしているかどうかは別にして。

「ご、ごめんなさいぃぃぃ!! 失礼します!!」

やけくそで行われた八つ当たりが終わり、我に返る。周りに誰もいなかったことが、唯一の救いだろうか。全力で頭を下げ、全力で謝罪の言葉を口にし、全力で走り去る。伊織にはそれ以外の行動がとれなかった。

(あぁ、恥ずかしい恥ずかしい! なんで他校の、それも年下に八つ当たりしてるの!?)

顔を真っ赤にしながら走り、しかしスクイズだけは忘れることなくきちんと洗い終える。それからチームの方へ戻れば、あまりの顔の赤さに皆から心配されるのだが、正直に理由を話すこともできず、「走りすぎたから! それだけ!!」と言い張るのだった。



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