胃痛がキリキリ
翌火曜日、烏野高校との練習試合の日。伊織は、朝から胃痛が止まらない。授業中も、休み時間も、いつでもどこでも、ずっとキリキリと締め付けるような痛みに襲われていた。
部活のことをあまり思い出したくなくて、及川たちの誘いを断り、クラスメートとお昼を食べたのだが、頭の中から練習試合のことが離れることはなかった。
そして放課後。ついに部活の時間である。胃痛はおさまるところをしらず、むしろ強くなってくる始末だ。

「うぅ〜……」
「伊織、大丈夫か?」
「今日一日、ずっとこんな感じなんだよ」

同じクラスで、一日中胃痛に苦しむ様を見ていた花巻が、伊織の背中をさすりながら、岩泉の問いに答える。
痛さのあまりしゃがみこみ、職務放棄の状態になる伊織の様子に、練習試合のメンバーは気が気ではない。

「今……何時……」
「…………もうすぐ烏野が来る時間っスね」
「ん、ありがと国見」

よろよろと立ち上がり、胃のあたりを押さえながら、第三体育館出口の方へ向かう。これから烏野を迎えに行くと思うと、キリキリと痛んでいた胃が、ズキズキと大きな痛みに変わるような気がした。

「え、ちょどこ行くんだ!?」
「仕事だよ。烏野の案内頼まれてるから……」
「いや、お前……。その状態じゃ無理だろ……」
「行くったら行くの! マネージャーの職務くらい全うしてみせる……!!」

半ば意地になって叫ぶ伊織に、試合メンバーの2、3年生は溜め息をついた。こうなった伊織は、いくら止めても言う事を聞かない。少なくとも一年以上の付き合いでそのことを知っている彼らは諦めて、それぞれの準備に戻る。この場にいる唯一の1年生国見も、深くはつっこまず、先輩たちにならうのだった。

○○○

(もう少し早く行く予定だったのに……!)

痛む胃を無視して、走って校門の方へ向かう。たどり着くとそこには、ぎゃあぎゃあとやかましく騒ぐ烏野高校排球部の面々がいた。もちろん、兄である孝支もいる。キョロキョロと部長と思しき人物を探してみるが、みんながぎゃあぎゃあと騒いでいて、困っている伊織には気づかない。

(どうしよ。部長の名前叫ぶわけにはいかないよね……。こーちゃんも忙しそうだし……。て言うか、そもそも喋りかけられない)

烏野高校排球部の喧騒を眺めながら、少しの間考えていると、澤村が伊織に気づき、駆け寄ってくる。

「あの、青葉城西の男バレの方……ですか?」
「あ、はい。こんにちは。青葉城西高校男子バレーボール部、マネージャーの菅原です。今日はよろしくお願いします」
「あの、もしかして菅原の……」
「そちらの菅原孝支の双子の妹です。よく似てると言われるんですよ」

にっこりと、出来るだけ愛想よく見えるように振舞うものの、胃は限界に近い。キリキリキリキリと痛み続けるが、もう無視する以外にどう対処していいのかがわからない。

「そうでしたか。どうりで……。あ! 俺は烏野高校排球部、部長の澤村大地です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「良い試合にしましょうね。では、案内します」

澤村が集合の号令をかけると、すぐに烏野の面々は集まった。ひとかたまりになった集団に「こちらです」と声をかけ歩き出すと、後ろがざわめくのがわかる。
きっと孝支関連のことだろう。双子であることを差し引いても余りあるほど、伊織と孝支は似ている。違うのは、髪型とほくろの位置くらいではないだろうか。

「はぁ……」

誰にもバレないようにこっそりと溜め息をつくと、少しだけ楽になった気がする。
第三体育館が近くなり、「ここです」と声をかけようと振り返ると、人数が減っていた。

「え!?」
「どうしました?」
「いや、人数が……」
「え゛!?」

伊織の“人数が……”の一言で、部員が減っていることに気づいたのだろう。澤村と孝支が慌てて元来た道を戻り、田中やその他のメンバーを取り押さえに行く。すぐにこうやって反応するあたり、普段から大変なんだろうな……なんて思いつつ、皆が揃うのを待つ。
少ししてから、皆が無事揃ったようなので、案内をし、ある程度の説明をしてから、烏野の集団から離れた。

(さあ、残りの仕事を片付けなければ)

いつの間にかおさまっていた胃痛を不思議に思いつつ、小走りで自陣に戻るのだった。



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