色々と大ダメージ
「伊織、連絡があるから来いって」

ボールの音や部員の声でそれなりにうるさい体育館横の水道にて。部員のドリンクを作っていると、岩泉に呼ばれる。

「わかった! これ作ったらすぐ行く!」
「おう、じゃあ伝えとくわ」

作りかけだったものを手早く完成させ、急いで体育館内に戻ると、岩泉が手招きするレギュラーの集団へ。

「すみません! 遅くなりました」
「じゃあ、連絡始めるぞ。烏野高校との練習試合が決まった」
「へ?」

溝口の言葉に思わず間抜けな声をもらす。しかし、伊織の衝撃はこれでは済まなかった。

「セッターは北川第一出身の影山にやらせることを条件に組んだ。各自気を抜かないように。以上!」

(セッターが……こーちゃんじゃない……?)

固まってしまった伊織に、兄が烏野にいると知っているレギュラーの三年たちが恐る恐る話しかけると「せ、せせせせセッター……」と壊れたように呟くのだった。

「伊織ちゃん!? 帰ってきて!!」
「伊織が壊れた!」
「え、ちょ!? どうしたんスか!」
「大丈夫ですか!? 伊織さん!」

そんな壊れた伊織と騒ぐ三年を見て、もちろん他の下級生たちも戸惑うわけで。青葉城西高校男子バレーボール部にて、プチパニックが起こったのは言うまでもない。

「伊織ちゃん? だ、大丈夫……?」

パニックが起こって少ししてから、事情を知っているレギュラー三年のみで伊織を宥めることになったのだが。

「え、うん……。大丈夫大丈夫。ふふふ……」

何度話しかけても、生気を失った顔でうわ言のように「大丈夫」と返事をする機械みたいになってしまい、どうしようもないというのが現状だった。
普段はわりとしっかりとしている伊織がこんな状態になってしまい、兄について困る伊織を知らない後輩たちからすれば、初めての状況でいまいち練習にも身が入らない。溝口の叫び声も、普段の三割増で聞こえる気がする。

「どうしよっか……」
「伊織〜、しっかりしろ〜」
「後輩たちが驚いてんぞー」
「大丈夫大丈夫……」
「どこがだよ」

このままでは埒があかない、全員がそう感じたとき、松川がぽつりと呟いた。「そう言えば、伊織がおかしくなったのセッターを指名したって聞いてからだよな……?」と。
嫌な予感が皆の脳裏をよぎる。これはもしかしなくても……。花巻が意を決して口を開いた。

「なあ、もしかしてさ。伊織の兄貴って烏野のセッター……?」
「…………うん」

小さく首を縦に動かし、蚊の鳴くような声で呟かれた肯定に、四人は固まった。

「そりゃこうもなるわな……」
「なんて言っていいか全くわかんねぇわ」
「飛雄……ここまできて迷惑を……」

結局この日、伊織が元に戻ることはなく。しかし、翌日にはいつも通りとはいかないまでも、少しへこんだ伊織として問題なく過ごすのだった。



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テーマ「人外ファンタジー」
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