お兄ちゃんは悩み中
「ただいまー」
「あら、おかえり孝支。ちょうどいい所に帰ってきたわ〜」

帰宅し、居間に声をかけると母さんがパタパタと出てきた。何でも買い忘れたものがあったそうで、俺か伊織が帰ってくるのを待っていたようだ。
母さんは昔から「家に帰ってきた時におかえりって言ってくれる声がないほど、寂しいことはないのよ」と言っており、誰かが帰ってくる時間にあまり家を空けたがらない。自分で言うのも何だが、良い考えをもった母である。

「じゃあ俺、留守番しとくよ」
「ありがと〜、すぐ帰ってくるからね」

そう言い残し母さんが出かけてから五分程。玄関のドアが開く音がした。

(父さんが帰ってくるにはまだ早いし、伊織かな……)

居間の扉が開き、予想通り「ただいまー」と伊織の声がする。

「お、伊織。おかえり」

その声に応えると、今までは普通の表情だったのに一気に不機嫌そうになり。
「……ただいま」と返事をし、早足に自室へと向かった伊織に思わず溜め息が溢れた。

○○○

翌日、朝練後の部室にて。ふと昨日のことを思い出し、また溜め息が溢れる。

「俺、そんなに嫌われることしたかな……」
「スガ……? 大丈夫か?」

大地から怪訝な表情を向けられ、慌てて何でもないと否定するが、そんなことでは誤魔化されてくれない。流石、我が主将様である。

「んー……何ていうか妹のこと……なんだけどさ」

仕方なく話を切り出せば、大地まで溜め息をついた。だから言わなかったのに……。

「また妹のことで悩んでたのか……」

呆れ半分に大地がそう言うと、横から田中が「え、スガさん妹いたんすか!?」とデカイ声で反応し、その声に西谷、日向まで反応する。

「マジっすか! 何歳なんスか?」
「俺も妹います!! 小学生に!」
「俺のとこは妹って言っても双子だから、同い年だよ」

少し困りつつも教えると、一層部室がうるさくなる。こんなところで言うべきではなかった気がするが、今更それを思ってももう遅い。今までは三年しか知らなかったんだけどな……。

「妹さん、可愛いッスか!?」
「そりゃまあ……多少はな」
「いや、そうじゃなくて……」
「あ、見た目? 見た目は……俺に似てる」

少々恥ずかしい間違いをしたが、興奮気味の田中に答えてやると、大地がぼそりと「多少どころか溺愛だろ」と呟いた。幸いなことに誰にも聞こえてないみたいだったが、大地には後で注意が必要なようだ。
とりあえず、この騒ぎに収拾をつけなければ……。そう思ったとき、タイミングよく予鈴が鳴る。

「やばっ、HR始まる!!」

日向の一言を皮切りに、全員が焦って教室へ向かうのだった。今回ばかりは、予鈴に感謝しなくてはならない。



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