あなたを覚えてしまった



私は料理が好きで、食べるのも好きで、お弁当も自分で作ってて、今日のは自信作で、そしてとてもいい天気で、どうせなら外で気持ち良い日差しに包まれながら食べよう、なんて思うのも自然の摂理で。
まあそんなこんなで中庭にやってきたわけなのですが、非常に食べづらいです。
時は数分前、意気揚々と「今日のお昼はカレーだ〜!」なんて鼻歌を歌いながらやってきて、おあつらえ向きに誰もいない中庭のベンチに腰掛けて、いざ食べん! と蓋を開けた時にやってきた少年。ていうか青年。
カレーだし匂いもきついからなぁ、なんて思って外に出たのもあるのに! 華の女子高生が一人でカレー食べてる光景なんて、あんまり人に見せるものではないなぁとも思っていたのに! 人気の少ない中庭に、一人うきうき気分でやってきた私の行き場のない気持ちをどうしてくれる!? カレーだけが楽しみだったのに……。
そんなことを思ったものの、やはり食欲には勝てなくて。別容器に入れてきたゆで卵を乗せ、カレーを食べ始めるとその少年の目線がこちらに釘付けにされたのだ。


「んん……」


カレーは自信作で、トッピングのゆで卵やウィンナーは相性抜群で、とてもとても美味しいお弁当のはずなのに、環境のせいで美味しさ三割減だ。それでも美味しいから、私作のカレーはすごい。なんて話は置いといて。
今更移動するのも嫌だし、どうにか少年がどこかに行ってくれないだろうか。そんな願いを込めつつ、ちらりとそちらに目をやると、彼の目はやはりこちらに釘付けだった。一体何をそんなに見ているのか。そりゃ確かに、中庭でぼっちカレーしてる女子生徒は、ちょっと面白いかもしれないけども!
一つため息をついて、お弁当箱を脇に置く。お茶でも飲もう。そして落ち着こう。心頭滅却すればいい……私は一人、周囲など気にせず、美味しいカレーに集中すればいいのだ……。
彼の視線が動いたのを感じたのは、その時だった。私の方に向いていた視線が、私の脇に移動したのである。私の脇というか、お弁当箱に。今まで気づかなかったが、心なしか目が輝いているような気もする。


(あれ? もしかして、最初から視線はお弁当箱に向いてる……?)


頭の中に一つの仮説が生まれ、もう一度お弁当箱を持ってみた。なんと視線は私の方に戻ってきたのだ。
なるほど、カレーに興味を示していたのか。美味しそうだもんね! わかるわかる! それならば話は早い。食べきってしまえばいいのだ。
味わいたかったけど、仕方がない。本末転倒な気もしないではないが、見られているのも嫌なのだ。


「ん〜! おいしい!」


ぱくぱくもぐもぐ、そんな効果音が私の周りには飛んでいそうである。そして少年には、じーっという効果音がついてそう。食べ進めるうちに、少しの罪悪感が沸いてきたけど、カレーなんてわけれないし、見知らぬ少年にわける度胸もない。
もうすぐなくなってしまうカレー、少年の目は輝いている、ここでカレーを分け与えるのが、本来の対応ではないのか。この異常な状況にそんな風に思ってしまう。


「んんん……!」


迷った末に、ちらりともう一度少年をみやれば、タイミングがよく彼の腹の虫が鳴いた。もう声かけるしかないな……。


「少年。そこの!」
「!?」


少年はキョロキョロと辺りを見回し、誰もいないことを確認してから、不思議そうに自分を指さす。そうだよ、君だ。君しかいないんだよ、少年。


「私、デザートがまだ残ってるのに、お腹いっぱいになってきちゃったからさ、よかったらこのカレー食べない?」
「いいんスか」
「いいよー」


いそいそと寄ってくる少年に、警戒心はないのかと問いたい。警戒されたらそれはそれで悲しいけど。


「隣、どーぞ」
「あざっす」
「はい、新しいスプーン。食べさしでごめんね」
「いえ、昼飯足りなかったんで」


常に携帯している使い捨てスプーンを渡し、私は新しいお弁当箱を取り出す。中には昨日焼いたパウンドケーキが六切れ入っている。手を合わせてからケーキにかぶりつくと、とても幸せな気分になれた。


「少年、パウンドケーキも食べる?」
「いただきます」
「カレーは美味しい?」
「うまいっす」
「そっかそっか」


思っていたよりも少年はでかかったのだが、餌付けをしている気分になるし、なんなら可愛さも感じている。ペットとかって、こんな感じなのかな。


「少年は何年生?」
「一年っす」
「なんだ、私と同じか」
「同じなんすか」
「うん。一年五組だよ」
「少年って呼ぶんで、先輩かと」
「なんとなく少年って呼んでた。先輩だったら大変だったなぁ。少年が一年で良かった」
「そっすね」


ぼちぼちと話し、少年が中庭前の自販機を利用しにきていたら、カレーが目に入ったことや、バレー部所属なこと、ポークカレーの温玉のせが好きなこと、勉強が苦手なことなんかを知った。
いつの間にか時間が経ち、チャイムがなったので、もう話す機会もそうないだろう、なんて思いつつ彼と別れたのだが。
それからというもの、晴れた昼休みに中庭へ向かうと、毎回少年と出会うようになり、毎度お弁当を分けてやることになるのを、今の私は知る由もない。



title by⇒確かに恋だった

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