教室 初夏 らくだ



「蒸し暑いね」
「くっそー! わかんねぇ!」
「騒がないでよ〜」

教室には、私と日向の二人きり。しとしと降り続ける雨が、気分を少し落とし込み、蒸し暑さと不快指数を上昇させていく。

「普段の授業を聞いてないのは誰ですか〜?」
「俺だけど……」
「補習嫌だって言うから、こうして勉強付き合ってあげてるのに……。日向、さっきから全然進んでなくない? テストまであと3日なんですけど〜」
「わっかんねぇんだもん!」
「開き直らないでよ」

ぎゃあぎゃあと喧しく喚く日向には、本当に困ったものである。いくら教えても理解なんてしやしない。どうやって高校受験クリアしたのやら。

「もう暗記教科に絞ろ。現社なら範囲そんなに広くないし、わりと馴染みのあること多かったから」
「現社って、範囲どこだっけ」
「そこから……?」

筆箱の中から付箋を取り出して、彼の教科書に貼り付けていく。付箋だけじゃあ心もとないから、メモも渡しておこう。

「これが範囲ね。とりあえず読んで覚えて」
「なあ、砂漠ってさ、らくだがいるとこだよな」
「まあ一概には言えないけど、そんなイメージでいいんじゃない?」
「じゃあさ、これかららくだが増えるってこと?」
「はあ?」

日向の言っている意味がわからず、訝しげな視線を送る。確か現社の教科書を読ませていたはずだが……?

「あ、砂漠化の話?」
「そうそう」
「そういうんじゃないんだけどなぁ……。ていうか、無駄話してる暇あるなら、1つでもいいから暗記して」
「らくだは?」
「らくだはいらない! 関係ないから」
「いや、増えないの?」
「増えない」

その後もぐだぐだと関係のない話を続ける日向が、勉強する気なんて持っていないのは火を見るより明らかで。結局私も諦めて、雑談に興じるのだった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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