愛しの幼馴染みたち



※短編「妹→神→……?」の関連話です。


突然だけど、俺の幼馴染みたちについて聞いて欲しい。
一人はクロって言って、俺の一つ歳上。俺のいる音駒高校の男子バレーボール部部長をやってる。いつも独特の寝癖に悩んでて、ちょっと腹黒いけど多分優しい。
もう一人は名前って言って、クロと同い年の女の子。いつもニコニコしてて、ちょっと頭悪いしうるさいけど、いい人。クロが大好き。
名前は、昔からクロに大好きだって言ってたんだけど、いつもクロは本気にしてなかった。確かに、「好き」なら俺も言われたことあるし、他の人にも言ってることはあったけど、「大好き」なんてクロにしか言ってなかったのにね。名前ってすごく分かり易いのに、クロはああ見えて案外鈍かった。
このクロの鈍さが主に事件の引き金な訳だけど、その話は今は置いとくね。と言うか、順を追って話すから、その内にわかる……と思う。(クロほど鈍くなければ)
事件の始まりは、クロと名前が高校一年生、俺が中学三年生のころ……。

○○○

「研磨! 聞いて!!」

蝉の声がうるさい八月になったばかりの頃。ドタバタと遠慮の欠片もなく俺の部屋に入ってきたのは、名前だった。

「……何?」

仮にも受験生の、ましてや追い込みの季節である夏休みの部屋に乱入してくるとは、一体どういう神経をしているんだ。……別に勉強していた訳でもないし、名前に言ったところで聞かないのは分かってるから言わないけど。

「あのね! 私、クロのこと大好きでしょ? そろそろ振り向いて欲しいなーなんて思ったりするわけ!」
「うん」
「それでね! 振り向いて貰うにはどうすればいいか、友だちとかに色々聞いて回ってるんだけど!」
「うん」
「研磨はどう思う?」

いつもは相槌さえ打っていれば、勝手に話して満足して帰っていくのに……。面倒な案件だと思いつつ、しかし、昔から一途にクロを思い続ける名前が、いい加減可哀想だと思うのも本心である。
とりあえず、当り障りのない所から聞いておくか……。そんな安易な考えから「他の人はなんて言ってたの?」と誰にでも思いつけそうな、答えにもなっていない質問をする。

「うーんとね〜……とりあえず、皆からはおしすぎ! って言われた!」
「全員から?」
「うん!」

おしすぎは俺も同意見だ。他の人からみても、やっぱり分かり易いんだなぁなんて、どうでもいいことを考える。

「他にはどうしたらいいとか、聞いてないの?」
「え〜…………あっ! おしてダメならひいてみろ! ちょっと冷たくしてみるとか! って」
「じゃあ、普段より少し冷たくしてみたらいいんじゃない?」
「少し冷たく……そだね! やってみる!」

その後名前は、「冷たくするには、どうすればいい?」などと方々に聞いて回っていたようで、夏休み明けには見事なキャラチェンジを果たしていた。
放課後、クロがウチに駆け込んで来て初めて名前の惨状を聞いたわけだけど、この時ほど、名前のアホさを憎らしく思ったこともなければ、名前に変な冗談を言った奴を恨んだこともない。
それから、部活前にはクロから。帰宅後は名前から。毎日のように、相談(と言う名の惚気もあった)をされるハメになった。

「研磨! 名前がまだ話してくれねぇんだよ……。俺、何かしたのか……?」
「何もしてないからなんじゃない」
「はぁ? どういうことだよ」
「自分で考えれば」
「おい、何か知ってんのか? 研磨!」

だとか。

「もしもし? あ、研磨ぁ〜! 聞いて聞いて! あのね、今日もクロに素っ気なくしてたんだけどね! それでもやっぱりクロってばかっこよくって〜!」
「う、うん……」
「でねでね! 私に素っ気なくされて、ショックみたいな顔してて! これって、ちょっとは意識されてるのかな? って思ったんだけど、研磨はどう思う?」
「ちょ、うるさ……電話口ではもうちょい声小さく……」
「やっぱりぃ!? だよねだよね! そういうことでいいんだよね〜! でさ!」

だとか、こんな会話をほぼ毎日だ。
お互いに、今まで当たり前にいた話相手がいなくなって困るのはわかるけど、もう少し自重して欲しい。俺は今までの2倍以上の話がきて、面倒くささも2倍なわけだし。
何も知らないクロの場合、あれだけ戸惑うのも仕方ないし、今まで常にクロへの愛を周りに発散していた名前が、急にそれをやめれる訳がないのもわかる。
結局俺は、今日も(一応)大切な幼馴染みの為に、黙って話を聞く役目に徹するのだ。

○○○

その役目は、俺が高校二年生になった今も相変わらず続いていたんだけど、今日はどうやら様子が違うようで。

「研磨〜! おはよッ!」
「おす、研磨」

事の顛末はさておき。数年ぶりの三人での登校に、俺らしくもなく少し胸が踊った。

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