空恋模様 | ナノ


大人たちの悪ノリが本格始動です。 [ 5/13 ]

チチチ、と小鳥の囀ずる声が聞こえる。カーテンを少し開けて外を見てみれば、もう明るくなり始めていた。

(徹夜は、やり過ぎたかなー……)

そんなことをぼんやりと思いつつ、凝り固まった体を解す。バキバキとなる肩に、将来の不安を感じた。
相馬くんとの電話で決まったことは、大きく分けて三つ。
まず一つ目が、男女交際がばれないようにすること。これは、ワグナリアのルール的にも、超重要事項だ。そして、本当にお付き合いしている訳ではないので、ばれると面倒、というのもある。
二つ目に、人前では今まで通り呼びあい、二人の時は名前で呼ぶということ。これは、相馬くんからの提案で「そっちの方が、隠れて職場恋愛やってるカップルっぽいし、スリルもあっていいんじゃない?」とのことだ。彼は、完全に面白がっている。……まあ、私もそれに乗ってしまったのだが。だって、面白そうだし。
最後の三つ目。なるべく一緒の時間を増やすこと。これは、私からの提案である。せっかく男女交際(偽物)しているのに、先週のように、何もなければ意味がない。
以上の三つを大まかに決めたわけだが。改めて見ると、午後十二時から午前三時まで電話したのに、大したことが決まってない気がするのは、気のせいではないだろう。
とりあえず、一つ目さえ守ればそれでいいや。そう思い、バイトに行く支度をする。今日は土曜日なので、朝から出勤だ。

(そういえば、足りない画材とか、インクとかあったなぁ……)

準備が終わってから画材などの確認をし、買うものをメモしていく。

「あとは、シャー芯と……」

ぶつぶつと呟きながらいるものを考えていれば、携帯がバイブで振動する。

「はい、もしもし」

名前も確認せずに適当にでると、電話の向こうからは、相馬くんの声。

『もしもーし、おはよう。つくしちゃん』

半笑いで、人の名前を呼ばないでほしい。

「おはよう。博臣くん……くっふふっだったのね」
『人の名前呼びながら、笑わないでよ。つくしちゃん、誰か確認しないで出てたんだ』
「相馬くんも、笑ってたじゃない。で、何か用?」
『彼氏からの電話なんだから、もう少し喜んでよ……っ…………』
「笑いが堪えきれてないじゃない……っふふっ……ダメだ、我慢できない……」

二人して、笑いを堪えながら電話する姿は、些か滑稽だったろう。
落ち着いてから、相馬くんが本題を切り出す。

『あのさ、今日、バイトの入り時間同じでしょ? 一緒に行かない?』
「あー……えっと、買い物していこうかと思ってたんだけど……」
『じゃあ、付き合うよ。何買うの?』
「画材とか、文房具メインかな。でもいいの? そう……博臣くん、多分退屈よ?」
『昨日……まあ、実質今日だけど、に決めたじゃない。一緒の時間を増やすんでしょ?』
「…………面白がってるわね」
『まあね。そういうつくしちゃんも、面白がってるでしょ? じゃあ、今から迎えに行くから。多分30分かからないと思う』
「はいはい、待ってる。じゃあね」

電話を切った後に気づく。私、相馬くんに家の場所教えたっけ? ……なんて、相馬くん相手に愚問か。あの人が、知らないわけないよね。
そう思い、確認作業を進めていくのだった。

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