空恋模様 | ナノ


下衆コンビ、誕生しました。 [ 4/13 ]

相馬くんと上辺だけの恋人関係を結んでから、一週間。
新しく入った小鳥遊くんと山田さんに挨拶も済ませ、今までの療養生活で忘れていた仕事内容を再確認したりもした。

(まあ、わりと順調かなー……。アレ以外は)

そんな事を思いながら、ちらりと相馬くんの方に目を向ける。彼は、私の視線に気づくことなく、元気な山田さんに絡まれて疲れ果てていた。あ、佐藤くんに殴られた。
 
「ひどいよ、佐藤くん! 別に俺はサボってなかったでしょー」
「山田と遊んでただろうが」
「ちがッ、あれは、山田さんが〜……」
 
グダグダと言い訳する相馬くんに、またもや佐藤くんの制裁が加えられる。
ゴチンッと鈍い音がキッチンに響いたが、誰ひとりフロアーの子たちが来ないところをみると、小鳥遊くんも山田さんも、すっかりこの店に馴染んでいるらしい。
どうでもいい事を考えながら手を動かすことだけはやめないでいると、相馬くんがこっちにやって来た。
 
「都城さ〜ん。佐藤くんってば、理不尽だと思わない?」
「うるさい、ヘタレ」
「辛辣すぎない!? ……何、怒ってるの?」
「まあね。大分イライラしてるわ」
 
言い終えてから、相馬くんの背中を平手で思いっきり叩く。
 
「いたッ! だからって、八つ当たりしないでよ……」
「八つ当たりなんかしてないわ。正当な怒りよ」
「…………俺、何かしたっけ……?」
 
心当たりがまるでない。そう言いたげな相馬くんを睨みつけながら、小声で「一週間前」と言うと、何かを察したのか目線を逸らす。

「私が、なんで怒ってるのか。理解してくれた?」
 
あえて、にっこりと笑顔を作りながら聞いてみると、コクリと頷く相馬くん。そして、「あのさ……、今日、バイト終わってから暇?」なんて訊ねてくるので、「そうね。誰かさんが、なーんにも言ってこないから、暇で仕方ないわね」と、嫌味たっぷりで暇だ。と返しておいた。
 
○○○
 
バイト終了後、着替えていると、相馬くんから「近くの○○公園で待ってるから、来て」と、メールが入った。文面から察するに、相馬くんはもうすでに着替えて、公園に向かっているのだろう。

(このまま、スルーして帰っても面白そうだけど……)
 
一瞬、非情な考えが頭をよぎったが、流石に可哀想なのでやめておく。このままじゃ、漫画のネタだって集めることができない。
公園に着くと、予想通りもうすでに相馬くんが待っていた。
 
「お待たせ」
「都城さん。早かったね」
「そう?」
「うん。都城さんなら、わざと遅れてくる可能性も考えてた」
 
言いながら微笑んでくる相馬くんに、私も微笑み返す。
 
「そんな事考えてないわよ、失礼ね。精々、ちょっと約束を無視しようかなー……。ぐらいのもんよ」
「それ、俺の想像よりひどいからね? まあいいや、それより、どこか入ろうよ。公園で立ち話する意味もないし」
 
相馬くんの言葉にそれもそうだと頷き、二人で歩きだす。目指すは、近くのファミレスだ。ワグナリアよりも営業時間の長いそこは、未だ煌々と光っていた。
中に入ると、店員の「いらっしゃいませー!」という声が閑散とした店内に響く。
 
「時間も時間だし、大分空いてるね」
店員の案内を受け、席に着くと相馬くんが声のボリュームを下げて、そんな事を言う。適当に相槌を打ちながら、「相馬くんも、コーヒーでいいわよね?」と一方的に確認をとり、注文をすませる。
 
「さて。今日、どうして私は、相馬くんに呼び出されたのかしら?」
「都城さんって、前置きとか無いんだね……」
「何よ。私と相馬くんの間にそんなもの、必要ないでしょ?」
 
意地悪く笑いながら、言葉を続ける。「なんて言ったって、恋人同士だものね」と。その言葉を聞くと、相馬くんは、ばつが悪そうに目を逸らした。

「いや、そのー……、ホントにごめん。一応、バイト帰りとか、誘おうと思ってたんだよ? ただ、二人のシフトが合わなくてさ……」
「ふーん。言いたいことは、それだけ?」

きまり悪そうに言い訳する相馬くんに、追い討ちをかける。相馬くんは、「えっと……、いや、だから……その……」と言葉にならない。上手い言い訳が、思いつかないのだろう。
きっと、こんな状況が初めてで、対応の仕方がわからないに違いない。もし、間違った対応をして、私を怒らせれば、仕事に支障を来す可能性もある。相馬くんが仕事熱心って訳じゃない。ただ、険悪な雰囲気になり、バイトメンバーに「相馬、何したんだよ……」+フライパンとか、「相馬さんも都城さんも、喧嘩しちゃダメ!」とか、面倒なことになりかねない。
相馬くんは、それが嫌なのだ。

「……本当にごめん!」

なんと! 素直に謝ることを選んだようだ。別に相馬くんは、何も悪くないんだけどね。

「何を謝る必要があるのよ。私が、一方的に怒ってるだけなのに」
「へ? じゃあ、何でそんなに威圧的なの……?」

きょとんとした顔で、訊ねてくる相馬くん。そんな君には、ありのままの真実を授けよう。

「相馬くんの反応が、面白くって」

少しはにかむような演技をしながら、上目遣いで、彼を見やる。相馬くんは、唖然としたあと、盛大に溜め息をついた。

「都城さんって、演技好きだね……」
「何も演技に限ったことじゃないわよ。面白いことが大好きなの。相馬くんもでしょ?」

いたずらっぽく笑いながら言えば、「そうだけどね? 都城さんのは、タチが悪い」と言われる。

「相馬くんも、大概だけどね」

話に一段落ついたところで、ちょうどコーヒーがやってくる。淹れたてのカップからは、湯気がゆらゆらと立ち上っていた。

「さて、じゃあ、色々決めましょうか」
「色々って?」
「ワグナリア、恋愛禁止でしょ。今後、どういう風にしていくか、それだけ決めとかないと」
「そう言うことか。二人で皆を騙すって考えたら、ワクワクしてきたよ」

爽やかな笑みを携えながら、とんでもない下衆発言をする相馬くん。

「ホントに相馬くんは、下衆いわねー……」
「そんなこと言って、都城さんも楽しそうじゃない。顔見たら、すぐわかるよ」

にやにやしてしまう目元を、やっぱり隠しきれてなかったようだ。「いくつになっても、いたずらは楽しいもんよ」そう返しながら、コーヒーを啜る。
ちなみに、一時間後の閉店までコーヒー一杯で粘り続け、家に帰ってからもずっと電話で話していたのは、また別のお話。

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