空恋模様 | ナノ


空っぽの関係、始まりました。 [ 3/13 ]

「相馬くん、お願いがあるんだけど……。聞いてくれる?」
「どうしたの? 都城さん」
このあと、彼女の口からでてきた言葉は、おおよそ、バイトの休憩時間に、伝えるような言葉ではなかった。
「私と、おつきあいしてくれない?」

○○○

北海道某所のファミリーレストラン、ワグナリア。
俺のバイト先にあたるこの店は、なかなか変わっていると思う。従業員が大体変人なのだ。
そんな店に勤めていて、毎日何も起こらない筈がない。俺がここでバイトを始めたのも、これが決め手だった。
さて、そんなワグナリアに、あるバイトの女の子……都城さんが復帰するらしい。彼女は、反抗的だけど、そんなところも含めていじりがいがあったなぁ……なんて、彼女にとっては大変不名誉なことを考える。
それは置いといても、都城さんの復帰は、俺達キッチンにとっても大変喜ばしいことである。伊波さんの相手をしなくてすむのだ。=殴られる確率が減るってこと。伊波さん、最近、より力が強くなったからなぁ……。いくら小鳥遊くんが相手をしてくれてるっていっても、痛いのは嫌だしね。
そんなこんなで、休憩時間。休憩室に入ると、件の都城さんがいた。ここで、冒頭に戻る。

○○○

一体、彼女は、何を言っているのだろうか? ひとまず、正気かどうかを疑う。

「えっと……、都城さん、大丈夫?」
「何言ってるの、相馬くん。大丈夫に決まってるじゃない。大丈夫じゃなかったら、職場復帰してないわよ」
「いや、そう言うことじゃなくてね?」

どうしよう。話が通じない。もしかして、買い物に付きあうとか、そう言う意味だろうか? どうかそうであって欲しい。そう一縷の望みをかけて、聞いてみる。

「付きあうって、買い物だよね?」
「言い方が悪かったわね。男女交際の方よ」
「……そっか。で、何で俺なの? 佐藤くんの方が、イケメンだし、優しいし、優良物件なんじゃない?」
「一番あと腐れがなくて、いいじゃない。相馬くんだと」
「あと腐れって……」

にっこりという効果音がつきそうなほど、きれいに微笑みながら言ってのける都城さん。ここまで話したら、嫌でも気づいてしまう。彼女が、何か企んでいることに。

「で、今回は、何を思いついたの?」
「恋する乙女の気持ちや、今どきのカップル事情などなど。他にも、知りたいことはたくさんあるの。それを知るために、相馬くんにおつきあいしてもらいたいのよ。もちろん、男女交際の意味で」

この人は、どうしてこうも常識はずれな答えを出すのだろう。いくらなんでも、俺の事、ぞんざいに扱いすぎじゃないだろうか。

「お互い愛が無いのに? それは、俺に対して失礼じゃない?」
「ええ、そうね。とてもひどいことだと思うわ。でも、相馬くんだから。もし、佐藤くんしかいないのならこんな事、頼まないわ」
「流石に傷つくよ? 俺」
「ごめんなさい……。こんな事言えるの、あなただけだから……。あなただけの、特別なの」

無駄にしなを作りながら、口元に手を持っていき、顔を伏せる都城さん。よくよく見ると、肩を震わせている。中途半端な演技だな。

「うわぁ……。こんなに嬉しくない特別初めて」
「何よ、ここは“トゥンク”ってなる場面でしょ。わざわざ、演技までしてあげたのに」
「笑いが堪え切れてないし、理由が酷過ぎてときめけないよ……」
「そもそも、相馬くんしか漫画の事知らないんだから、他の人に安易に頼めるわけないでしょ。いいから、引き受けて」

都城さんは、趣味で漫画を描き、個人経営のWEBサイトで公開している。所謂、WEB漫画家と言うやつだ。
もちろん、ハンドルネームを使っているし、そんなことをしているなんて誰にも言ったことがないらしい。だから、WEB漫画家の『都』が彼女だと知る人は絶対にいない。……俺を除いて、だけど。
しかし、普段は脅しのネタにしていることが、逆手にとられるとは……。

(まあ、面白そうではあるしね……)

半ば、都城さんの勢いに圧されるように了承する。

「分かったよ。引き受けた。他でもない、都城さんの頼みだしね」
「そう言ってもらえて、嬉しいわ。これから、よろしくね。ひ・ろ・お・み・くん」

わざとらしく名前を呼ぶ彼女は、とても嬉しそうに笑っていた。

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