空恋模様 | ナノ


新しいネタその2と仲良くなりました。 [ 13/13 ]

平日午後四時の店内は、とても閑散としている。元々、お客様があまり多くないので、こんな時間ともなればそれも当たり前ではあるのだが。

「暇ねぇ……」

キッチンでよく一緒になる佐藤くんも相馬くんも、平日はいつもだいたい夕ご飯時に入る。フロアの高校生たちも、みんなそうだ。轟さんは休憩だし、店長は食べてるし。残る人と言えば山田さんだけになる。

(まあいっか、山田さんのことを知るいい機会だし)

轟さんの休憩が終わる頃には、相馬くんが出勤予定だ。それまでの約一時間、山田さんで暇つぶししていよう。

「山田さーん」
「何ですか?」
「今、暇でしょ? だから、時間の有効活用しようかと思って」
「有効活用?」
「そう。せっかくだし、山田さんと仲良くなるための時間にしたいなぁと」

すると山田さんは目を輝かせ、嬉しそうに「山田も有効活用したいです!」とノッてきてくれた。単に仕事したくないだけなんだろうけど。

「んー、じゃあ質問大会でもする? 訊きたいことがあるならだけど」
「いっぱいあります!」
「じゃあ何でもどうぞ。答えられる限り答えるわね」

家出少女だと思われる山田さんは、自分のことを訊かれても困るだろうし、訊いても大丈夫なことは、嬉々として自分から話してきそうだ。とりあえず、山田さんの質問に答えて、慣れるところからの方がいいだろう。

「都城さんはおいくつなんですか?」
「二十歳、大学生よ」
「バイトはいつからやってるんですか?」
「高1の8月。もう四年目になるのかしら。私が佐藤くんの……ひと月あとくらいから勤務だったと思うわ」
「なんでキッチンにしたんですか?」
「フロアの制服が似合わないから」
「そんな理由でですか!?」

私の返答に、山田さんは大きな声を出した。そんなに驚くほどのことでもないと思うのだが……。

「そういう短いスカートとか、苦手なのよ。あ、でも一応伝票もレジも打てるし、フロアの仕事は一通り覚えてる」
「なんでですか? 面倒なのに……」
「暇な時に教えて貰ってたのよ。やることないから、せっかくだしと思って」

当時、轟さんは同年代の私と佐藤くんに中々慣れてくれず、会話もあまりできなかった。なので、お仕事のことなら轟さんも話しやすいかと思い、暇な時にフロア業務の教えを乞うていた結果、なんだかんだとできることが増えていったのだ。(ちなみに、轟さんと打ち解けるには、店長の惚気話を聞くでも良かったのかもしれないが、疲れるので選択肢から外した)

「そういえば山田さんって、まだ伝票打てないのよね……?」
「お皿下げるのしかできないです」

……お客様が来たらどうするのだろうか。山田さんはできると言っているが、お皿下げるのも、まだまだ頼りなかった気がする。

「店長ー。ちょっといいですかー」
「なんだ」

今現在のフロアメンバー(山田さん、店長)は、お店としてあまりにも不安だ。どういうつもりなのかと店長に確認に行く。「今お客様が来て大丈夫なんですか?」と。
この状況ならば、店長が接客するしかないのだが、彼女がまともに接客しているところは、あまり見たことがない。

「都城いるし大丈夫だろ」
「はい?」
「山田ができない分、お前が接客すればいいだろ」
「いや……店長がいるじゃないですか」
「私がまともに接客出来ると思うのか!」

店長の一言に唖然である。何を堂々と言い切っているんだ。まともではなくても、一応接客できるくせに……。

「山田ができなくても都城がやればいい。八千代が休憩の時も、これなら困らないしな。じゃないとシフト一緒にした意味ないだろ」
「店長として、その発言どうかと思います……」

結局この日から、私と山田さんと店長だけの時間になるシフトが増え、山田さんに仕事を教えたり、雑談したりする内に彼女との距離は縮まった。結果オーライということで良いのだろうが、なんだか腑に落ちない。

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