デート開始です。 [ 12/13 ]
相馬くんにデートに誘われた翌日……もとい、デート当日。私は初っ端からやらかしてしまった。寝坊である。
(待ち合わせの時間には間に合うだろうけど……)
手早く用意をしつつ、大体の時間配分を決めていく。洗濯などの家事類をやっている時間はなさそうだ。まあ、帰ってきてからやればいいだろう。洗濯も、一日くらいなら多分大丈夫。
頭の中でさっと家を出るまでの予定をたて、その通りに動いていく。といっても、朝食をとって、身支度をしたくらいなのだが。
そういえば、博臣くんとの初デートだな、なんて柄にもないことを思いつつ、しかし、だからといって特別おしゃれなどもせず。普段通り、いつもと何ら変わらない私服を着て、家を出る。
一応余裕をもって着きたくて、少し小走りで待ち合わせ場所の最寄駅へ向かえば、そこには見覚えのある姿がすでにあった。
「おはよう、博臣くん。遅れてごめんなさい」
「おはよ、つくしちゃん。俺も今来たところだから。それに、まだ時間になってないしね」
カップルのテンプレート的待ち合わせの会話を済ませ、どちらともなく歩き出す。
改札をくぐる前に切符を買いに行こうとすれば、「切符はもう買ってるから」と相馬くんに手渡された。
「……ありがとう」
お礼を言ってから財布を取り出すと、「これぐらい別にいいよ」とやんわり押し戻される。
電車内は土曜日なこともあって、それなりに混んでいた。そんな中でも、相馬くんは、さりげなく私を壁側に立たせ、自分自身が壁になるようにするなど、気配りが意外とすごい。
「相馬くんって、案外デート慣れしてるのね」
「なんで?」
「悔しいし、癪だけど、女性に対する気配りとか、すごく自然なんだもの」
「妬いちゃった?」
意地悪い笑みを浮かべながら聞いてくる彼は、とても楽しそうである。仕方がないので、ここは私も少しのってあげるとしよう。
「山田さんが、相馬くんにベタベタしてるときよりかはね」
笑顔で伝えれば、「嘘くさ」と半笑いで返してくる。
「でも、過去の女の子より、普通は山田さんに妬くと思うんだけど」
「そう? 過去の女の子は異性で、山田さんは妹でしょ? それなら、異性に妬いちゃうんじゃないかしら?」
「妹ではないけどね……。それを聞くと、確かにその通りだね。さすがつくしちゃん」
「伊達に恋愛漫画描いてないので」
ゆるゆるとなんでもないような話をしながら、絵画展の開催されている駅まで過ごす。
駅に到着後、ここから十数分歩かなくてはならないのだが、話していればあっという間だろう。
「……博臣くんと話すのも、思ってたより楽しいわね」
「それ、本人の前で言うんだ」
「つい口からこぼれちゃったのよ」
「つくしちゃんは正直すぎる所があるよね」
「そうかしら? そういえば、デート慣れ……もとい、女慣れしている博臣くんは、今まで彼女いたことあるの?」
苦笑いしつつ「女慣れって言い方やめてよ」と言ったあと、相馬くんは少し考える素振りをみせる。
「何? 考えないとわかんないくらい多かったの?」
「そんなわけないでしょ。彼女はいたことないよ〜」
「……なるほど。色んな女の子を、その外面で誑かして、いざとなったら上手いこと逃げてたのね」
「なにそれ。俺、そんなイメージ?」
笑顔で「ええ。これ以外、想像つかないわ」と相槌を打てば、「好きな子が出来なかっただけなんだけどな〜」とにこやかに返される。相馬くんは、中々手強いというか、やりづらいというか……。私にとって都合のいい情報を引き出しづらい。
「……好きな子ができたことない博臣くんは、初彼女が私で良かったの?」
なんとなく気になって、純粋な疑問として聞いてみれば、「面白そうだったからね」とニコニコしながら答える相馬くん。
「認めたくないけれど、私たちって、似た者同士なのね……」
笑顔で隣を歩く相馬くんに、この呟きが聞こえたかのか、聞こえなかったのか。「あともう少しだよ」とだけ言われた。
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