お誘いされました。 [ 11/13 ]
それは突然のことだった。
「ねぇ、つくしちゃん。明日ひま?」
「……は?」
バイト中の休憩時間、お茶を飲みながらのんびりしていれば、急に現れた相馬くん。そして、謎のお誘いだ。警戒しないわけがない。
「は? ってひどいなぁ……。彼氏らしく、デートに誘おうと思ったんだけど」
後半は、わざわざ私の方へやって来て、耳元で小声になって言う。口元に手まで当てて、なんと分かり易い内緒話の見た目だろうか。
「普段の博臣くんからは、考えられないこと言うわね」
「ん〜、まあ実を言うと、俺も暇でさ。それなら、せっかくだしと思って」
「あっそ……。私も暇だったから、別に構わないけれど」
相馬くんの分のお茶を入れながら返事をすれば、彼はにっこりと笑い「だろうと思ってた」なんて言ってのける。
「人の予定まで把握してるの……? 気持ち悪ッ」
「すごいはっきり言ったね」
「事実じゃない。で、どこ行くの?」
お茶を口に含むと、口内にじんわりと温かさが広がっていく。相馬くんの分を渡すと、素直に礼を言ってきたので、「ん」とだけ返しておいた。
「どこか行きたいところある?」
「博臣くんと行きたいところは、特にないわねー」
「つくしちゃんは、俺のこと嫌いなの?」
「まあ、それなりに?」
にっこりと告げると、「俺、一応彼氏なんだけど」と同じようににっこりと返される。笑顔で毒を吐きあっても全くもって意味はないのだが、例えフリといえども、相馬くんとイチャイチャするカップルは、難しそうだ。(悪ふざけとかでなら、できるかもしれないが)
「あ、そういえば」
「何よ」
「明日からだっけ? 自然の絵画展」
「!」
自然の絵画展とは、自然物ばかりをモデルに描かれたものを展示していく……という名前そのままの絵画展である。
私が行きたかった……と言うか行く予定だったものだ。開催からしばらく待って、人が減ってからと思っていたのだけど……。二回でも何回でも、見る価値はある。
「なんで知ってるの……?」
「別に? 彼女の興味ありそうなものを、予め調べておくのも、彼氏の役目じゃない?」
「…………本当に出来た彼氏だことで」
お見通しなのがなんだか悔しくて、睨みつけて言ってみたけど、相馬くんには全く効いてなくて。「じゃあ、明日は絵画展に行くってことで」なんて勝ち誇った笑みで言うものだから、思わず手が出てしまったけれど、私は何も悪くないと思います。
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