お前ら早くくっつけよ



俺は最近、あることに悩まされている。

「聞いて聞いて! さとーくん!」
「あ?」

ほら、また来た。

「あのね! あのね! 遂にさっき! 相馬くんが来たの!」
「だろうな。シフト、そろそろだし」
「それでね! たまたま休憩だった私と休憩室で会ってね、“こんにちは名字さん”だってー! 休憩室に来るまで相馬くんの声聞こえなかったから、多分私、ワグナリアで一番に声かけてもらえたの!」

言い終わってから、「キャーーーーー!」なんて言いながら一人で興奮する名字を見て、イライラがつのる。
頬に手を当て、バタバタと動き回る名字。動きが騒がしい。

「おい、ここキッチン。埃立つだろ」
「あ、ごめんね。さとーくん」
「あと、そろそろ相馬くるぞ」
「え、ほんとだ! 仕事行ってきます! あと今日の相馬くんもかっこよかったよ!」
「その情報いらねぇ」

俺と同い年の名字は、相馬のことが好きだ。好きなのは構わない。趣味が悪いとは思うが。
問題は俺に惚気に来ることだ。しかも二十歳の惚気方じゃない。うざめの学生の惚気方なのが、余計にイライラさせるのだ。さらに、問題はこれだけじゃなかった。

「佐藤くーん!」

ほら、また来た。悩みの種その二。

「あのさ、聞いてよー。今日、バイトに来てさ、一番に名字さんに会ったんだよねー。しかもさ、挨拶したら“あ! こんにちは! 相馬くん!”だって! 可愛いよねー。俺の事大好きなの全面に出ててさ、本人、気づいてないんだよ。話の通じる絶妙な馬鹿さ加減がたまらないよねー」
「そうかよ」
「あ、ごめんねー。轟さんとうまくいってないのにこんな惚気聞かせて。名字さんと轟さんのも聞いてるし、佐藤くんは惚気の聞き上手だねいたたたたたた!」

無言で相馬の顔面にアイアンクローをかける。このまま顔が潰れてしまえばいいのに。
一分ほど経った後、そろそろ仕事をしなければと思い直し、相馬から手を離す。

(毎日毎日交互に惚気に来やがって……)

溜め息をつきながら、仕事を再開。
相馬に至っては、名字の気持ちに気づいてやがるし、もういいからくっつけよ。そして二人で勝手に話してろ。そう思う俺は何もおかしくない。
こいつらがくっついた所で惚気がなくなるなんて有り得ないのだが、そう願わずにはいられなかった。

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