五万打記念リクエスト | ナノ


一歩進んで半歩下がる [ 2/4 ]

拍手お礼文(壁ドン 縁下)の続き


※大学生設定です。


名前が大暴走したあの日から三日間。
その間ずっと連絡つかず、口もきかずだった彼女から一通のメールが届いた。それには“今日、夜家行くから”の一文のみ。緊張したまま昼間を終えてついに夜。彼女がやってきたものの……。


「……」
「……」


狭い部屋に沈黙が流れる。いつも暮らしている自宅リビングは、とても気まずい空間へと変化していた。


「えっと……名前さん……?」
「……何」


ぶっきらぼうに一言放った彼女の表情は、俯いているせいで窺うことが出来ない。 声色で判断すると、不機嫌か照れか、というところだ。


「今日は何か、用事でもあったのかなぁ……なんて」
「ある、けど……」


もじもじと言いにくそうにする名前を見て、先ほどのぶっきらぼうは不機嫌ではなく照れからのものだと察しがつく。この三日間、話しかけてもメールをしても無視だったのだが、そろそろ気も落ち着いてきたのだろうか。


「あのね、力くん。……とりあえず謝りたいことがあるの。無視してごめんなさい。あと、勝手に寝室占領して、何も言わずに帰ってごめんなさい」
「うん」
「他にもあって……。言いにくいことなんだけど、少し聞いておきたいというか……」
「うん?」


視線を辺りに泳がせ、そわそわと落ち着かない様子の名前に何か嫌な予感がした。


「あの……! 力くんって私のことちゃんと好きだよね? というか、恋愛対象女の子だよね!?」
「……はあ!? そうに決まってるだろ!?」


突拍子もないことを言い出す名前に、思わず俺も叫んでしまう。今年の驚いた出来事、トップ3には間違いなくはいる。それくらい驚いた。恋人から恋愛対象がほんとに女性か真剣に疑われる男子大学生が一体この世に何人いるだろうか。


「だって力くん私に手を出さないじゃん!! この前もあそこまで言わしておいて何もなしだったし! もう恋愛対象女の子かどうか疑うしかないでしょ!?」
「いや、それ以外にもあるよ! なんでそうなった!」
「男はみんな狼なんでしょ!? それなのにそういう風にならないし、私に魅力がないのかなって……! 私は力くんがほんとに好きだからそういうことがしたいのに!」


肩で上下させ、顔を真っ赤にしながら叫ぶ彼女はまだ止まらない。ぎゅっと握られた拳は小さく震えていた。


「いっつもいっつもちゃんと服着ろだとか、ひっついてもさり気に離れるとかさ! 親か! それとも見苦しかった? 私だけ好きなのかなって不安になるし!! 最初は照れてるのかな? って思ってたけど付き合ってもう1年だよ!? 初心にも程があるでしょ!! 女に恥かかすんじゃないわよばーか!」


言い切った名前の顔にはうっすらと汗すら滲んでいる。年頃の女の子が、彼氏に対してこれを言うなんて一体どのような気持ちなのだろうか。


「ごめん……。俺、名前にそんな思いさせてるなんて気づかなくて。名前が嫌いなわけじゃなくて、むしろ好きだからこそというか、一時の感情で手を出して良いものかって思っちゃって……」
「で、タイミング逃しまくって今に至るっていうの?」
「うん、ほんとにごめん……」
「力くんは優しすぎるっていうか、気にしすぎっていうか……。そういう所も好きなんだけどね、でも限度ってもんがあると思うの」
「うん、ごめん」


頭を下げると、名前は「いいよ、もう。顔あげて?」と俺の顔をのぞき込む。そして深呼吸してから、緊張した面持ちで居住まいを正した。


「あのね今日、泊まっていい……?」


顔を赤くしながらちろりと見上げてくる名前に心臓が跳ねる。これ以上彼女に恥をかかすことはできようか。


「どうぞ、というか大歓迎……デス」
「……ん、ありがとう」


気恥ずかしくて二人で笑いあってから約二時間後……。ベッドの上には気まずそうに座る俺たちがいた。


「ご、ごめんね……! やっぱりいざとなったら恥ずかしくなっちゃって!! 初めてでもないくせにね!! 力くんとだと緊張しちゃって! 力くんが嫌とかじゃないの!」
「うん、大丈夫。拒否られた時はさすがにちょっとショックだったけど、大丈夫。理由はわかってるから。……名前もこんな気持ちを味わってたんだな」
「ほんとにごめんね!?」


お互いに諸々の準備を済ませ、そういう空気になったのだが。いざそうなると、今度は名前が耐えられず、あまりの恥ずかしさに全力でコトを拒否するという事態に陥っていた。


「こ、今度!! 今度こそ絶対頑張ろ! ね!? だから、とりあえず今日は、このまま普通に寝ませんか……?」
「そうだね。無理やりする必要もないし。名前が大丈夫になるまで待つよ」


そんなこんなで俺たちは今日も変わらず、何もすることなく眠ることになるのだった。一緒のベッドに入るようになっただけ、前よりは進歩しているのだと思いたい。

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