五万打記念リクエスト | ナノ


勝利確率1%未満 [ 1/4 ]

俺には、好きな人がいる。
同い年の女の子で、京都に配属されて出会った人。
家族から慕われており、仕事に対していつも真摯で真面目。ただ真面目故に思いつめてしまったり、抱え込んでしまうこともあるようで。そういう時はもう少し周りを……欲を言えば、俺を頼ってくれればいいのに、なんて叶わないことを思う。


「蝮さん!」
「はい? 名字?」
「良かったらお茶、付き合ってくれません? 蝮さん、さっきから休憩してないでしょ」
「そんなことは……。まだ仕事残ってるし、ひと段落してから……」


目をそらし、もごもご口ごもりつつ話す蝮さん。そんな彼女を可愛いななんて思いつつ。


「ってさっきも聞いたんだけど」
「うッ……でも……」
「んー……。じゃあ、俺の暇つぶしに付き合ってよ。一人で休憩するの寂しいからさ」
「……ほな、ちょっとだけやで」
「わかったわかった。ちょっとでも嬉しいよ」


こんなやり取りは、もう何回目だろうか。数え切れないくらいこの口実を使い、俺は蝮さんと二人の時間を得ていた。蝮さんに休んで欲しい気持ちは嘘じゃないけど、彼女を思っているようで、その実、自分の欲求を満たしているだけだ。ずるいと思う。ずるいと思うけど、こんなずるをしたって、彼女の想い人には……柔造さんには勝てないのだから、それくらいは許して欲しい。
柔造さんが好きなのかと、蝮さんに確認したわけではない。蝮さん本人だって、自覚さえしていないだろう。でも、毎日彼女を見ていればわかる。好きな人のことなのだ。わかりたくなくても、わかってしまう。
こうやって、小狡いことをして蝮さんと二人の時間を作った時、大抵近くには柔造さんがいた。柔造さんもいつも蝮さんのことを気にかけていて、度々遠目に様子を見ているようだった。おそらく彼も、俺と同じく蝮さんが好きなのだろう。なんとなく、そう感じていた。


「……名字」
「なに?」
「……いつもごめん」
「何が? 休憩とらないこと?」
「……まあ、そうやな」
「別にいいよ。俺はこうやって蝮さんと二人でのんびりするのが好きだから。休憩の間、退屈なのもほんとだし。だから、謝らないで欲しいかなぁ。結局俺の暇つぶしなわけだし?」
「……おおきに」
「どういたしまして」


特に何を話すわけでもなく二人でお茶をすするだけのこの休憩が、蝮さんに俺だけを見てもらえる貴重な時間だった。仕事中はもちろん仕事のことを。仕事が終われば家のことを。柔造さんがやって来れば柔造さんのことを考える蝮さん。喧嘩が毎回白熱するのがいい証拠だ。
仕事の都合で一日の大半、いつも傍にいるのは俺だけど、蝮さんは俺の方なんて全く見向きもしない。こうやって、二人の時間を作ろうとする度にそのことを思い知らされる。


「そもそも無理ゲーなんだよなぁ」
「何の話?」
「いや、最近始めたゲームが難しくてさ。昔っからやってる人にはやっぱり勝てないんだよねって話〜」
「名字ってゲームするねんな。知らんかったわ」
「……はまっちゃって、やめ時がわかんないんだよ」
「さよか。……それ、難しいんやんな?」


ちろりとこちらを窺いながらそんなことを言うから、「蝮さんがゲームに興味持つなんて珍しいね」と思ったまんま伝える。


「……名字がやめられへん程はまるゲームやったら、ちょっとやってみたい思てん。……あかん?」


慌てて俺から目線を逸らし、もごもごと言いにくそうにそんなことを言うものだから、
「ごめん、前言撤回」
「は?」
「無理ゲーって嘘。すっごい頑張ったら、1%くらいの確率で勝てるかも」


なんてそんな希望を持ってしまうのだ。この調子で頑張れば、俺の報われない恋心も、少しは日の目を見ることができるかもしれない。


「蝮さん、今度の休み暇? 興味あるなら、そのゲーム一緒にやらない?」
「! 名字がええなら……」
「やった! 楽しみだなぁ」


とりあえず、難しいゲームを探しに行かないと。

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