三万打記念リクエスト | ナノ


可愛い子供たち [ 3/4 ]

いつも通り、部活のない月曜日。寄り道もせず、さっさと帰宅すればリビングにて母が何かの映像を夢中になってみていた。

「ただいまー! 何見てるの?」

母がここまでテレビに熱中するのも珍しい。そう思い声をかけると、孝支と名前そっくりの笑顔で「おかえり、名前。懐かしいでしょ〜」とテレビの画面を指さした。

「ちっちゃいこー……兄貴……?」
「そうなの〜! 名前もいるのよ!」

母がそう言った直後に、画面の中に幼い孝支とそっくりな名前が現れる。二人してカメラに背を向けているが、横に並び、何やら楽しそうだ。

「押入れの中整理したら出てきてね。ビデオなんて見れるのかな〜って思ったけど、案外いけるのね〜。ほんとかわいい」

確かに、幼い孝支と名前はかなり可愛らしい。名前も珍しく「ほんとだ。可愛いね」なんて素直にこぼしてしまうくらいには可愛らしかった。

「でしょ! さすが私の子供達」

誇らしげにする母に和みつつ、「これ、何してるとき?」と映像の詳細を尋ねると、母は嬉しそうに話し出した。

○○○

「孝支〜、名前〜! こっち向いて〜!」
「こーちゃ〜ん! 名前ちゃ〜ん! パパの方みて〜!」

両親が可愛らしい双子……もとい、孝支と名前に呼びかけるが、二人はテレビに釘付けのまま、楽しそうにしている。楽しそうなのは別に構わない。むしろ、楽しそうにしていてくれる方が、親としても大変嬉しい。しかし、ホームビデオを撮っているのに、いくら呼びかけてもテレビから目を離さないとなると、悲しいものがある。

「せっかくビデオ買ったのにな……」
「いざとなれば、お菓子を使って……」

大人二人が必死に呼びかけたり、興味をひくことを考えたりしてみても、双子は目もくれない。ずっとテレビに夢中である。あんなドキュメンタリーごときに歌うお父さんと手を叩くお母さん(お菓子を持ってる)が負けるなんて……! 思わぬ強敵テレビに、両親は困り果てていた。

「テレビ消してみる?」
「だめよ、絶対泣いちゃうもの」

あれやこれやと試行錯誤しているいちに時間は過ぎ、テレビの画面が切り替わった。いつの間にか時刻は午後五時。幼児向け教育番組の始まる時間となっていた。
テレビからは何やら明るい音楽が流れ、孝支と名前はより一層目を輝かす。
その様子をみて、両親は悟った。この子達をテレビの前からどかすのは無理なのだと。

「だめだ、今日は諦めよう……」
「そうね〜。これ始まっちゃったら無理だわ……」

二人して諦めモードになり、父はカメラを置き、母はお菓子を置く。そんな時だった。テレビに映るお姉さんやお兄さんと呼ばれる人物が歌い出したのは。
テレビのお姉さん、お兄さんは、楽しげに歌を歌い、小さな子供によくうけそうな振り付けを踊っていく。それに合わせて、双子が何やら動き出したのだ。
「だ、だ〜!!」だの「あー!」だのよくわからない言葉を叫び、楽しげに拙い踊りを披露する。自分たちも、テレビの中のお姉さんたちのように立派に踊れていると思っているのだろう。とても楽しそうだったし、何より可愛らしかった。

「あなた! カメラ!!」
「待って! すぐつける!!」

絶好のチャンスに親は慌て、カメラを構える。興奮と萌え(この双子の親が萌えというものを理解していたかは定かではないが)にうち震え、カメラの手ぶれはひどかったが、後半にはなんとか落ち着いていた。
後にビデオを見た時に、両親は語ったという。「この時ほど手ぶれを恨んだことはない」と……。

○○○

母が内容をかいつまんでざっくりと説明すると、時刻は午後五時だった。ビデオを停止させ「そろそろご飯の準備するわね」とそう言い母が立ち上がったとき、テレビからは先程までのビデオと同じ、楽しげな歌声が流れ出した。……教育番組が始まったのだ。

「あ、これ……!」
「懐かしい〜! さっきのやつじゃない!」

娘よりも母が嬉しそうに言い、そしてニヤリと名前の方に向き直る。

「ねぇ、名前ちゃん! 歌って踊ってよ!」
「言うと思った! 絶対嫌だから!!」
「お願い〜、親孝行だと思って!」
「いや! 兄貴に頼めばいいでしょ!!」

名前は「お風呂入ってくる」と言い残し、即座に逃げてしまう。ああなった母からは、逃げるのが一番だ。

(今日は長風呂にしよう……)

入る前からそう決意し、名前は二時間ほど浴室から帰ってくることはなかった。
ちなみにその二時間で、孝支が踊ったり歌ったりを要求され、根負けし、照れながらに歌と踊りを披露したのだが、それは名前の知る由もない話である。
孝支が母に口止めしたのは言うまでもない。

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