じゃれたい犬と逃げる蛇 [ 2/4 ]
「ま〜む〜し〜ちゃ〜ん!!」
語尾にハートがつきそうな勢い……と言うか、俺的には語尾にも俺自身にもハートつけまくりなつもりで蝮ちゃんの元へ駆け寄る。と。
「きっしょいねん! 寄るな!!」
半分取り乱したように顔をしかめ、叫ぶ蝮ちゃんもかわいいなぁ〜なんて思いつつ、俺は彼女まであと約1.5メートル程の距離で立ち止まった。
「用があるならそこで話し! それ以上近寄ったらしばくで!!」
「え〜!? 俺はこんなにも蝮ちゃんに抱きつきたいし、蝮ちゃんとじゃれあいたいと思ってんのに!?」
俺の台詞に対して、盛大に顔を歪める蝮ちゃん。そんな露骨に嫌がらんでも……、と思わないわけでもないが、蝮ちゃんの嫌がることをするのも本意ではない。それに、こんなんはいつものこと。日常茶飯事というやつである。
「わかった! ほなここから用件言うし! ちゃんと聞いてな!!」
「わかったから、早うしよし。私かて暇やないねん」
手をブンブンとちぎれそうになるほど大きく振って主張すると、蝮ちゃんは面倒くさそうに溜め息をついた。
「蝮ちゃん明日休みやろ?」
「そやけど、それが何やねんな」
「ほな、明日デート行こ!!」
でっかい声で叫べば、蝮ちゃんはわかり易く目を剥き、「はぁ!?」と声をあげた。周りにいた明陀の面々(仕事中)は、呆れたようにみていたり、笑っていたり、とそれぞれの反応である。
「アンタ、何言うてんの!? そもそも今仕事中やろ! アホちゃう!?」
照れからなのか、怒りからなのか顔を赤くさせ、喚く蝮ちゃんに「今暇やったし、ちゃんと仕事もやってるで?」と返せば、「そないな問題とちゃうわ!」と睨みつけてくる。
「蝮ちゃん、怖いわぁ〜。そないに睨んだらべっぴんさんが台無しやで〜! まあ、俺はそんな顔の蝮ちゃんも可愛らしい思てるけど」
にっこりと、思いっきり笑顔で言い切れば、蝮ちゃんは怒って「黙りよし!」とそのまま、どこかへ行ってしまおうとする。
「蝮ちゃん! 待って! デートは!?」
「行くわけあるか!! 一人で行ってき!」
怒鳴ると、蝮ちゃんは本当にどこかへ行ってしまった。目に見えてしょげる俺に、周りの大人たちは「名前も24やねんから、もうちょい落ち着いて誘え」とか「いやいや、まだ若いねんから、このまま気張りい」とかなんやかんや言われたけど、俺のことを応援してくれてることにはかわりないので、ありがたく励まされておくことにした。
ちなみに翌日。デートは実施できなかったものの、宝生家に押しかけ蝮ちゃんと一緒に過ごせたのはまた別のお話。
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