無自覚な友人たち [ 1/4 ]
俺の幼馴染みである志摩廉造には、ものすごく仲の良い女子がいる。その名も名字名前。彼らは、お互いを友達同士としてしか認識しておらず、しかし、傍から見ればまるでカップルのようで、見ていて大変もどかしい、というか腹立たしいというか……。
教室でも、祓魔塾でも、どこでも、毎日飽きもせずイチャイチャイチャイチャ。いい加減にして欲しいものである。
○○○
「志摩〜!」
「どしたん名字」
「新しいお菓子見つけたの!!」
中庭で子猫丸と志摩と昼食をとっていると、ぱたぱたとかけてくる名字。何やら叫んでいるが、正直その内容に興味はない。そもそも名字のお目当ては志摩である。
面倒やと思わないでもないが、名字自身はいい奴なので、そんなことは言わない。志摩と二人でいる時が、とんでもなく面倒なだけなのだ。
「新しいお菓子ね、いちご味のチョコがね、すっごい美味しいの! それで、志摩にも分けてあげようと思って!」
「へ〜、そないに上手いん?」
「うん、すっごい美味しい! ほら、はい!」
名字は、当たり前のようにチョコ菓子を手に取り、当たり前のように志摩の方へ。そして、志摩も志摩で当たり前のように口をあけ、当たり前のようにそれを食した。所謂、“あ〜ん”というやつである。
(今、名字は一言もあーんって言うてへんかったやろ!!)
内心、ものすごく突っ込みたかったのだが、コイツらに突っ込んでも無駄なことは、俺も子猫丸も、よぉく知っている。
「坊、堪えてくださいよ……」
「わかっとる……!」
苦笑いのような、単に引き攣ってるだけのような、そんな笑みを携えた子猫丸に、やんわりと止められ、喉元まででかかった突っ込みを白米と一緒に必死に飲み込んだのだった。
名字は志摩に菓子を与えると満足したのか、「じゃあね!」とスカートの裾を翻し元来た道を駆けていく。彼女の姿が昼休みの喧騒に紛れて見えなくなったのを確認し、無駄だと思いつつも志摩に訊ねた。
「お前、ほんまに名字と何もないんか?」
「なんもって?」
少しの間沈黙し、言ってもいいものかと考えたが、なんだか馬鹿らしくなって、
「……せやから、つきおうてるとかやん」
と言う。今までは直接的でなく、「距離近ないか?」とかあくまでやんわりと伝えていたのだが、そんな伝え方をしても奴らには通じない。もう無駄にやきもきするのも嫌なのだ。
隣の子猫丸は、平常心を装いつつも「ついに言った……!」と顔が物語っている。
志摩はぽかんとしたあと、噴き出した。
「ブフォッ! 名字と俺が付き合うて、ないですよ。あはははは! 坊はおもろいこと言うわ〜」
延々と笑い続ける志摩に、何も言えなくなり、俺と子猫丸は揃ってため息をついた。
[*prev] [next#]