brother & sister


すぐフラれる妹






「ただいま〜……」
「! おかえり〜」

居間でくつろいでいると、間延びした妹の声が聞こえる。またフラれたのか? なんてことを思い、しかし、直接的に聞くのも躊躇われたので、「帰ってくるの早くね?」と声をかけると、不貞腐れたようにしながら、名前は「……フラれた」とぼそりと言った。
俺が寝転んでいるのも構わず、ボスンっとソファの空いている部分にダイブする可愛い可愛い我が妹が、慰めろと言わんばかりに「ん」と頭を突き出してくる。仕方がないので奴の髪をぐちゃぐちゃにかき乱し、名前が凹んでる時に言うお決まりの台詞を優しくかけてやるのだった。

「ほら、聞いてやるから。話してみ?」
「……うん。話す……」

名前の話は至極単純なものだった。彼女は、兄……つまり、俺だ。俺がいるせいで、男も案外、女に対して幻想を抱いていることを知っている。もちろん、その内容も。まあ、女の子が壁ドンやらなんやらに憧れるのと、おんなじようなものだ。
男の幻想を知っているからこそ、名前は好きな相手(この場合彼氏)の幻想も極力叶えてやりたい、と思う。しかし、思いつつも、そんな幻想を言葉で砕き、からかうのが楽しいのだ。
それは、今の彼氏に対してもまったく変わらなかったそうで。

○○○

彼氏の家にて、少しいい雰囲気になった時のことだった。彼が、キスを迫ってきて、それに応える前に彼の顔を軽く押し返す。

「ちょっと待って。今日はダメ。せめて、時間ちょーだい?」
「は?」

きょとんとする彼に、「今から、ヤるんでしょ?」と、直球で聞く。

「え!? うん、まあ、雰囲気的にも……ね?」
「あのね、今からそういうことする女の子が、体毛生えてて嫌じゃない? 女の子といえばツルツルすべすべのお肌。でも、これは、日々の努力の賜物なんだよ。私、今日手抜きしちゃったからさ、チクチクするんだ。おっさんの剃りたての髭みたいに。それでも、そういうことしようと思える?」

つらつらと流れるように女の子のムダ毛事情を話すと、困ったように彼は笑いながら、「えっと……、俺は、気にしないよ……?」と優しい一言。でも私はまだまだ畳み掛けるように言う。

「どこぞのおっさんの剃りたての髭みたいな足に欲情できる? (中略)てなわけで、予約しといてくれないかな? ムードの欠片もなくて、申し訳ないんだけど、いつ、何日にそういうことするって」
「……」

にっこりと満面の笑みをして言えば、彼は黙りこくってしまった。

「あ、引いちゃった? でも、今言っとかないとさ、最中にそっちのナニがとは言わないけど、萎えちゃったら格好つかないでしょ? だ・か・ら、私なりの最大限の配慮です!」

○○○

なんて会話をしたら、致す前に「ごめん、ちょっとやってける気しないわ……」とふられたのだそうだ。

「私はさ! ちゃんとお手入れもしてたしさ! ムダ毛も処理してたしさ! ああしてからかった後にはさ! ちゃんとするつもりだったんだよ!?」
「まあまあ、男もそんなん言われたら、今後やってける気しねーって」
「冗談通じなさすぎぃ!!」

憤慨し、地団駄を踏む名前を「どうどう」と落ち着かせ、とりあえず、大人しく座らせる。

「お前、そうやってフラれるの何回目だよ……。いい加減やめらんねーの?」
「三回目……。でも無理! やめらんない!! 好きだからこそやっちゃうの!」
「いや、一々妹が致すまでの話を聞かされる俺の身にもなれって。身内のそういうの、あんまり聞きたくねーだろォ」

なんて言いつつも、俺にとってはこれでも可愛い妹なので、正直フラれて良かったと思ってしまってる面や、どこぞの馬の骨にやれない、なんて思ってる面もあり。この致そうとして失敗しましたという話を聞いて、安心している気持ちも大きかったりするのだ。(多少の恥じらいは覚えて欲しいけど)

「お兄ちゃんなら、別に私はいいんだけどな〜。お父さんお母さんはヤだけど」
「父さん母さんにそんな話したら、卒倒するぞ」
「やっぱり? じゃあ、お兄ちゃんにするしかないね。誰か分かんないけど、彼氏と上手くいくまで、話、聞いてよね!」

いたずらっぽい笑みを浮かべて言う名前に、俺はめっぽう甘いらしい。

「仕方ねぇな……。あと一回くらいにしろよ」
「頑張る! ありがとね、お兄ちゃん」


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