にゃんこの襲来 | ナノ


学内アイドルと既視感 [ 7/7 ]

最近聞かれることの多くなった「及川って、栗田さんと付き合ってるの?」という問い。それを否定すると「じゃあ、好きなの?」とか「告られたの?」とか、毎回そういう話をふられる。それも否定すれば、「最近よく話してるからそうだと思ったのに」とこれまたお決まりの文言が返ってくる。
外堀を埋められていくというのは、こういう感覚なのだろうか? なんて思うけれど、ちょっと違う気もする。いや、実際外堀を埋められていると言えば、そうなのかもしれない。そんな曖昧な印象を抱いたまま日々を過ごしていた。が。
やはり訊かれた分を否定するだけでは、そういった類の疑念は晴れないらしい。火のないところに煙は立たぬ、そんな考えの人や、憶測で物を言う人はいつだってどこにだって存在するものである。

「ねえ、栗田さん」
「はい? えっと……」
「2組のモブ山よ」
「何かご用ですか?」
「うん。人に聞かれたくないから、別な場所でもいい?」
「はい」

会話の内容はあまり聞こえないが、にこやかに対応する栗田さんと、少しぴりっとした雰囲気のモブ山さん。不思議そうに、こてんとあざとく首をかしげる栗田さんは流石だし、とても可愛らしくはあるんだけれど、この状況、そういうことしてる場合じゃないでしょって思う俺は、何もおかしくないはずだ。
先を歩くモブ山さんについて行く栗田さん。そしてそれにこっそりついて行く俺。
あんなの見てしまったら、放っておけない。たまたま見かけだけだし、そんなに気にすることはないのかもしれない。この前、おかしな趣味の話をしていたし。それに、俺にとって栗田さんは、言ってしまえば、ただの隣のクラスの女の子なわけだし。ただ、ピンチかもしれない女の子を放っておくのも気が引ける。
そのまま二人について行くと、校舎裏に到着した。モブ山さんの他にももう二人女の子が待ちかまえている。栗田さんは「皆さんどうしたんですか? お話したことはなかったですよね……?」とまたまたあざとく首をかしげた。
校舎裏にはモブ山さん含めピリピリした女の子が三人ときょとん顔の栗田さん、そして隠れている俺しかいない。
これは明らかに呼び出されてしめられるやつではなかろうか。ってあれ? これ、栗田さんと初めて出会った時と同じ状況?

「聞きたいんだけどさぁ」
「はい」
「あんた、及川くんのなんなの?」
「別にそんな、何ということは……。お友達になれたらなぁとは思っていますけど」
「そんなの信じると思う?」
「と、言いますと……?」

少し考えているうちに始まった。なんてえぐいんだ女の子。三人がかりで一人をしめるとは。しかもとても高圧的。しかしこれ、ほんとにデジャヴだ。

「ぶってんじゃないわよ。及川くんの前でもぶりっ子してさぁ。恥ずかしくないの?」
「えっと……ぶりっ子なんて、してるつもりはないんですけど……」

困った顔で猫をかぶり続ける栗田さんに、モブ山さんたちはよりイライラを募らせていっているようだった。ハラハラとする俺をよそに、女の子たちはどんどんとヒートアップしていく。

「それがぶりっ子なのよ!」
「ちょっと及川くんと喋ってるからっていい気になって!」
「あの、及川くんとはほんとに何もなくて、ただお友達になれたらなぁってだけなので」
「そうやって取り入るつもりでしょ!?」
「及川くんはみんなの及川くんなワケ。空気読めないことやめてくれる?」
「そんな、私ほんとにそんなつもりなくって」

涙目で訴える栗田さんに、モブ山さんはついに手を出した。どんっと肩を突かれ、栗田さんはバランスを崩す。背中を壁に打ち付けたようで、涙目のまま少し顔を歪めていた。

「った……!」
「顔だけはいいからって、調子に乗るのやめてよね!」

もう一度突き飛ばそうと構えるモブ山さん。これ以上は見ていられない。そう思い、「ねえ」と四人に声をかけた。

「及川くん……!?」

モブ山さんたちの驚いた顔が少し面白い。バレてこんな顔をするくらいなら、最初からこんなくだらないことしなければいいのに。そんなことを考えつつ、栗田さんを庇うように立つ。

「三人で囲むなんて、やり過ぎじゃない?」

あの時と同じようににっこりと笑いながらそう聞けば、モブ山さんたちは気まずそうに顔を伏せ、誰ともなく走り去っていった。なんだろうこれ。女の子たちの反応といい、シチュエーションといい、何から何までデジャヴを感じる。妬まれてる理由とか、会話の内容は少しずつ違うけど。
モブ山さんたち三人組と、栗田さんと出会ったきっかけでもある三人組は全然違う女の子のはずなのに、あそこまで同んなじ反応されるなんて驚きだった。
後ろにいる栗田さんの方を向き、「大丈夫?」と聞けば、栗田さんはわかりやすく舌打ちをして、ため息をついた。

「チッ……はぁ……」
「ははっ。それ、やると思ったよ」
「なんでまた来たんですか。誰も見てないと思ってたのに」

敬語なのに距離を感じない猫かぶりモードの栗田さんではなく、目線も言葉も冷たい、俺と二人の時にだけ見せる栗田さんの表情。じろりと目だけで見上げるのは、猫かぶりをしていない栗田さんのくせなのだろうか。そんなどうでもいいことを思った。

「たまたま呼び出されてるのを見かけたからさ。ここで放っておいたら男が廃るかと思って」
「そんなくだらない理由で私の楽しみを奪わないでください。二回目なんですけど。しかもこの前言ったところですよね? 妬まれるのが好きって」
「でも突き飛ばされてたしさ〜。流石に多勢に無勢はどうかと思うんだよねぇ」
「私は楽しいので何も問題ないと思いますけど」
「栗田さんが楽しくても、きっと他の人は誰一人楽しくないよ」
「そんなこと、知ったことじゃありません。それよりも、二度も私の楽しみを奪ってどうしてくれるんですか。あんなに露骨な感じで呼び出されることなんて早々ないのに」

普段はわかりやすく感情を顔に出さない栗田さんが、それはそれはとても不機嫌そうに言うもんだから、なんだか面白くて「そんなこと、俺も知ったことじゃないよ」って笑いながら返したら、彼女は本気で呆れたように溜息をつき、

「この代償は高くつきますからね」

とだけ言い残して、さっさと教室の方へ歩いていってしまった。

「一応助けたのに……。代償って何させる気なの……」

さっきまでは険悪な雰囲気でいっぱいだった校舎裏に、今は俺が漏らした呟きだけが漂っていた。

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