にゃんこの襲来 | ナノ


猫かぶりの楽しみ [ 4/7 ]

「おはようございます、及川くん」

口角を上げ、今まで何度も練習した爽やか且つ、可愛らしい笑顔を顔に浮かべる。不自然にならないよう、あくまで自然な範囲で、だ。
朝練後の及川くんと出会えたのは、本当に運が良かった。朝の予鈴前ともなれば、廊下にもそれなりの人通りがあるし、それに加え、一定数の女子が及川くん(とその及川くんに話しかける私)を見ている。

「! おはよう、栗田さん。どうしたの?」

私から話しかけるなんて、昨日まで一度もなかったのだから、何か用事があると思って当然だろう。そんな疑問には、あらかじめ用意しておいた、それなりに可愛らしい理由でお答えする。

「見かけたから挨拶してみたんですけど……だめ、でしたか?」

こてん、と首を傾げ、上目遣いでそろりと及川くんの様子を窺う。
あざとい、あからさま、ぶりっこ、だなんて今まで散々言われてきたし、そんなこと、自分が一番よくわかってる。今の私も、さぞかしあざといことだろう。
女子から嫌と言うほど妬まれてきたけれど、それが楽しくてやってるのだから、彼女たちは、私をいくら妬んでも無駄だということに、いい加減気づくべきだと思う。
なんて話は置いといて。

「だめじゃないけど、珍しいなって思ってさ」
「だって、きちんと知り合ったのは、昨日じゃないですか」

ふふっと軽やかに、決して周りの女子みたいに大口あけて「ゲラゲラ」とも、甲高い声で「キャハハ」とも笑わず、あくまでおしとやかな女子を演じ続ける。まあ、元々そんな馬鹿笑いする質でもないんだけど。

「それもそっか」
「……あの、これからも、挨拶とか……していいですか? 私、及川くんともっと仲良くなりたいって思ってるんですけど……」
「うん、もちろん! 俺としても仲良くしたいしね」
「ありがとうございます! じゃあ、私そろそろ教室に戻りますね!」
「うん、またね〜」

軽く手を振り、及川くんの元を後にする。周りの女子たちは目をギラギラさせていたり、羨望の眼差しをおくってきていたり、「美男美女でお似合いだよね〜」なんて囁きまで聞こえた。
これで、私と及川くんが関わりを持っていることも、お互い悪い印象は持ってないってことも、周囲に見せられただろう。(実際のところ、及川くんからみた私の印象は最悪なんだろうけど。)
さあ、どんな妬み嫉みがとんでくるのやら、楽しみで仕方ない。

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テーマ「人外ファンタジー」
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