にゃんこの襲来 | ナノ


変わり身の上手な君 [ 3/7 ]

栗田さんとの衝撃の出会いから数時間が経ち、放課後。月曜日だから部活もないし、岩ちゃんたちでも誘って寄り道しようかな〜、なんて考えていれば、教室の入り口には栗田さんが。俺と目が合うと、はにかみながら、小さく手を振ってくる。昼休みの栗田さんとはまるで別人だ。

「どうしたの? 栗田さん」

俺に用事があるのは明白だったので声をかけると、少し照れながらも「あの……今日、空いてますか?」とわざとらしく首を傾げるのだった。

○○○

栗田さんに連れられやってきたのは、学校からは少し遠い場所にある、全国チェーンのカフェだった。なるほど、ここならば青葉城西の生徒も少なく、学生の俺らでも入りやすい。

「よくこんな所知ってるね」
「穴場なんです。一人になりたいときもあるでしょ?」

にこっと笑う彼女は、確かに可憐だった。昼休みのあのことさえなければ、俺も危うく惚れていたかもしれない。
店内に入ると、コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。

「及川くんは、どれにしますか?」

栗田さんに聞かれ、「コーヒーで」と答える。お金を出そうと財布を取り出すと、栗田さんが先に払ってしまっていた。

「栗田さん、俺が出すよ」
「いいですよ。私が誘いましたし。付き合ってもらうお礼ってことで、ね?」
「いや、でも女の子に払わせるのも……」

いくら裏表の激しい腹黒栗田さん相手といえども、男として譲れないものはある。そう思い食い下がると、栗田さんもそれを察したのか、困ったような表情をする。

「アイスティーとコーヒーをご注文のお客様〜!」

2人が止まったのと同時に店員から声がかかり、とりあえず俺はトレーを受け取る。
栗田さんの先導で隅っこの席へつくと、早速彼女は本題に入った。

「で、話なんですけど」

先ほどまでの敬語なのに距離を感じない、ふわふわとした可愛らしい喋り口調から一転。冷めきった声色に、どこか距離を感じる敬語。常にニコニコと可憐な笑みを携えていた顔も、声色同様、冷めきっている。

(二回目だけど、これは慣れないな……)

内心、そんなことを思いながらしげしげと観察していれば、「何ですか?」と訝しげに、目だけでじろりと見上げてくる。表情や声色は冷たいのにも関わらず、こんなにもかわいい上目遣いをやってみせるのだから、顔がいいってほんとに得だ。そこに関しては、俺も得してる方ではあるんだけど。

「いや、すごい変わりようだなって」
「確かにそうですね。自分でも驚くレベルで変わってるな、とは思ってますよ」
「あ、自分でも思ってるんだ」
「そりゃあ、まあ。ここまで変われば思います。で、本題に戻していいですか?」
「うん、ごめんね。どうぞ話して?」
「では……」

栗田さんからの話は、案の定昼休みの件だった。口止めされるだろうなぁ、とは思っていたので、なんの新鮮味も驚きもない。

「いろいろな理由があって、好きで猫かぶってるんです。私。なので、黙ってていただけます?」
「うん、それはいいんだけどサ。代わりに俺からのお願い聞いてもらってもいい?」
「もちろん。黙ってていただけるのであれば、何でもしますよ」

明らかな作り笑いを浮かべながら栗田さんは言い切ったので、俺は素直にその言葉を受け取る。

「じゃあ、今回のお代は俺に払わせてね」

栗田さんとは違い、ニッコリと自然な作り笑いでそう言うと、彼女は「は?」と整った顔を崩した。

「俺にもプライドくらいはあるからさ〜」
「それはわかりますけど……。そこまでして守る価値あります? それ」
「男にとっては、時に命以上に大事なんだよ」

呆れたように「馬鹿なんですね」と言い、溜め息をつく栗田さんに、内心勝った気持ちになる。すかさず「そのドヤ顔気持ち悪いですよ」って言われてしまったけれど。今度からは顔に出ないように気をつけなければ。

「あ、勘違いのないように言っておきますけど」
「ん?」
「私、男の子に自らたかる趣味はありませんからね。そこらの自分を安売りする女どもと一緒にしないでくださいよ」

心底不愉快そうに吐き捨てた彼女に、俺は苦笑いしかできないのだった。

[*prev] [next#]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -