にゃんこの襲来 | ナノ


初対面で剥がれる皮 [ 2/7 ]

俺の在学する青葉城西高校には、学校のアイドル的存在が二人いる。まず一人は俺、及川徹。容姿端麗、頭脳明晰、そして運動もできる。その上、人間性まで素晴らしいんだから、モテない筈がない。自分で言うなと言われるけれど、実際、事実なんだから仕方がないよね。
そして、もう一人。栗田心さん。直接の面識はそんなにない。隣のクラスの女子、くらいの関係。彼女も容姿端麗、頭脳明晰、しかしながら気さくであり、誰とでも分け隔てなく接する人……という話はよく耳にする。運動はそれほど得意でなく、どこかか弱そうなところもあり、男子的守ってあげたい系女子。アイドルと言うよりかは、マドンナ……と言った方が、イメージは近いだろう。要するにモテている。そして更に要約すると、“女版、及川徹”みたいなもんである。
さて、そんな栗田さんなのだが、今現在、彼女は三人の女子に囲まれている。体育館裏のほとんど人通りのないこの場所で。殺伐とした雰囲気であり、どう見ても「実は……私、女だけど栗田さんが好きで……!」的な空気ではない。
これは明らかに、栗田さんに嫉妬した女の子たちが「おい、体育館裏来いや」的なやつである。
ちょっと一人になりたくてふらりと体育館裏に来てしまったが、これはとんでもない場面に出会した。しかし、これもモテる男の性なのだろうか。こんなの颯爽と栗田さんの前に登場し、かっこよく助け、栗田さんが俺に惚れるフラグしかないじゃないか。学校のマドンナまで惚れさせてしまうとは、なんて罪な男なのだろう。
パパっと自分の身なりを確認し、少し曲がったネクタイを正す。颯爽と助けに入って、ネクタイがヨレヨレだったり、曲がってたら少しかっこ悪い。女の子の夢と希望を守るためにも、服装だけはしっかりしておきたいところである。
栗田さんを守るため、いざ!
意気込み十分に四人の方を見てみれば、女子のリーダー格と思しき子が、大きく平手を振りかぶっていた。なんてタイミングなのだろうか。

「ねぇ、君たち何してるの?」

走って出ていき、今にも平手を繰り出さんばかりの手首を掴めば、大きく目を見開き「ぇ、及川……くん……?」と呟くリーダー格。なんだ、同じクラスの女の子じゃないか。
栗田さんもギュッと閉じていた目を恐る恐る開き、頬に痛みが来ないことに不思議そうな顔をする。そして、リーダー格の大きく上げられた腕を辿り、驚きの表情を見せた。なんて言ったって、俺が止めてるんだからね!

「三人で囲むなんて、やり過ぎじゃない?」

にっこりと笑ってそう聞けば、三人組は気まずそうに顔を伏せ、誰ともなく走り去っていった。謝りもしないとは、なんて人達だ。しかし、今はそれよりも栗田さんである。

「栗田さん、大丈夫?」

できるだけ優しく聞けば、栗田さんの口からは舌打ちとため息が聞こえた。

「チッ……はぁ……」
「!?」
「あのぉ、私そんなか弱い乙女じゃないんです。“……怖かった……。グスッ……助けてくれて…………ありがとうございます……”とでも言うと思いました? そういうの、ありがた迷惑なんですよ。自分でどうにかできるんで。そんなしょうもない偽善で、人の楽しみ奪わないでくれます?」

綺麗で尚且つ、可愛らしさを兼ね備えた顔は、普段の栗田さんの噂からは信じられないくらいにゲスい表情をしており、俺のことを非難しているようにも、嘲笑っているようにも感じられる。一体どういうことだろう。開いた口が塞がらない。これがあの栗田心だと言うのだろうか。

「あ……口が滑った」

栗田さんはそう呟くと、「コホン」と咳払いし、

「た……助けてくれて、ありがとうございます……! グスッ……私、怖くて……何も……」

仕切り直しとでも言うように、か弱い女の子を演じだしたのだった。アーモンド型の瞳には涙まで浮かべ、本当に怯える少女のように見える。しかし、あそこまで言われた俺は、もう騙されない。

「さっきのが君の本性……?」

恐る恐る聞いてみれば、栗田さんはすぐに涙を引っ込め、

「あ、やっぱり騙されてくれませんか。ざーんねん」

と、白けた顔で言い放ったのだった。

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