大きなびせいぶつ | ナノ


出発

四月に入って一週間。正十字学園に行くため、東京へ旅立つ日がやって来た。春の暖かさに包まれ、心地良い眠気が俺を誘ってくるものの、時間に間に合わんと坊と子猫さんに怒られてしまうので、怠けたがる体に鞭をうち、十数年過ごした愛しの我が家を出発する。

「ふぁぁ……。ねっむ……」

重い足取りで待ち合わせ場所に向かうと、生真面目な二人はすでに到着していた。

「志摩さん、おはよう」
「おはようさんです〜」
「おう、珍しいな。時間通りに来るなんて」
「流石に今日遅刻したら、二人ともブチギレますやろ?」

おちゃらけて言ってみても、二人からは溜め息を誘うばかりである。そこから適当に話しつつも京都駅を目指し、新幹線に乗車する。
新幹線に乗り込んでしまえば、後は東京に着くのを待つだけや。

「東京、どんなとこでしょうね」
「さぁなぁ……。舐められんようにせんとな」
「舐められんようにて……。そんな怖ぁい顔しとったら、誰も寄ってきませんよ〜」

ニコニコと坊に指摘すれば、これでもかと言うほどに睨みつけられる。うわぁ、これはほんまに怖いわ……。

「東京モンなんか、なんも信用でけへんわ! そんなもんハナから寄ってこんでええ」
「東京モン……ねぇ……」

坊の言葉をなんとなく反芻してみると、ふとあるコトが思い出される。あれ、いつやったっけ……?

「東京言うたら、転校していった女の子、覚えてます?」
「女の子?」
「そう、小杉千衣子って言う」
「小杉千衣子……? あぁ、志摩さんとえらい仲良かった子ですか?」

ふと思い出した元同級生について聞いてみれば、二人にもなんとなく記憶がよみがえったようで。

「そういえば、そんな子おったな」
「小学六年生の終わり頃に、東京行かはったんでしたっけ?」
「そうそう! 一緒に卒業式出たかった〜!! って言いながら」

懐かしいなぁ……と呟きながら、小杉のことを思い浮かべる。かなり小柄な体格で、いつもチビだのなんだのとからかわれてたな……。本人も、かなり子供っぽかったし。
三年と少し会っていない間に、彼女はどうなっているのだろう。東京に着けば、もしかしたら、会えるかもなんて、謎の期待を抱きつつ、電車のちょうど良い揺れに合わせ、俺の意識は沈んでいった。

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