2-2 志摩



「志摩くん、志摩くん」
「どないしたん?」

祓魔塾での休み時間。勝呂くんや三輪くんとお話している志摩くんに声をかけると、不思議そうに振り返った。
話さない訳じゃないけど、私から話しかけることもあまりないからなぁ、なんて思いつつ。

「あのね、壁ドンって知ってる?」
「おん、知ってるで〜。それがどしたん?」
「じゃあさ、やったことある?」
「流石にやったことはあらへんけど……」

いつも通り、笑いながら言う志摩くんに、「お前の場合、やる相手もおらへんやろ」と呟く勝呂くん。三輪くんも「志摩さんならせやなぁ」と同調し、思わず吹き出してしまう。

「あははは! 確かにそうだね! 志摩くんがそんなこと出来る相手、いるわけないか」
「みんなひどない!?」

ガタっと大きな音をたてて、大げさなリアクションをとる志摩くんに、余計に可笑しくなってしまう。

「笑いすぎやわ〜……」
「ごめんごめん……ふふッ、あ〜駄目だコレ。ちょっとツボ入っちゃった」
「そこまで!?」

ジト目で不服そうに言われたので、自分を落ちつけようと頑張るものの、全くもってできそうにない。
志摩くんはムッとしているようで、それがより私の笑いを誘う。なんでこんなに面白いのかよくわからないけど、ツボに入ったなら仕方ない。

「ふふふッあは……はぁ……ぷッくふッ……」
「全然堪えきれてへんぞ」

勝呂くんの指摘に「だって……」と返事するので精一杯だ。
すると、志摩くんが立ち上がり私に向かって笑いかけた。

「なに? おかしくなっちゃったの……?」
「んー? いや、笑いを止めたろと思って」

志摩くんの言ってることの意味がよく分からず少し困っていると、ズイッと志摩くんが迫ってきた。

「え? えっ?」

困惑する私をよそに、ずんずんと迫ってくる志摩くん。それにつれ、次第に後退していく私の足。

「志摩くん? ちょっとまって……」

ニコニコと無言で迫り続ける志摩くんに、若干の恐怖がわく。ここ二人の異常な光景に、今までそれぞれの事をしていた塾生たちも唖然だ。もちろんのことながら、勝呂くんと三輪くんも困惑中である。

「まっ、ひゃあ!」

教壇につまずき、盛大に尻餅をつく。多少お尻が痛いくらいで、特に怪我をした場所はなさそうだ。迫り来る志摩くんの方を見ながら後退していたにしても、うしろに教壇があることくらいわかりそうなものなのに……。
私が尻餅をついてからも、志摩くんは止まってくれない。目線の低くなった私と視線を合わせ、そのまま迫ってくる。
座ったまま後ずさるが、すぐに壁に背中がついてしまった。

「し、志摩くん……?」

未だに無言である。
これ、見てる塾生たちからしたら、とんでもない体制ではなかろうか。て言うか顔近ッ……。
思わず手を突き出して顔を押し返そうとすると、その動きを予測したかのように手を押さえつけられた。私の両手は、志摩くんの右手に簡単にねじ伏せられ、驚きと困惑が隠しきれない。そしてそのまま、空いている左手で壁に手を付いた。要するに、壁ドンの完成な訳である。

「ちょッ! あんた何してんのよ!」
「志摩!?」
「お前、アホちゃうか!」
「志摩さん……」
「うわぁ……!」

顔を真っ赤にするもの、咎めるもの、驚くもの、それぞれ反応は違うが、みな騒然となる。

「え……? あの……志摩くん……?」

私も不安になり、志摩くんに声をかけると「笑い、とまったやろ?」なんて言いながらにやり、としたり顔を見せられた。
そのしたり顔も、してやられたという事実も、ものすごく腹立たしくて、志摩くんの下腹部に蹴りをお見舞いしたけれど、後々神木さんと勝呂くん、そして三輪くんからもお仕置きされてるのを見て、流石に蹴りはやめてあげればよかったな、なんて思った。

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