2-1 縁下



※大学生設定です。

大学の友人と少し飲んで帰宅すると、誰もいないはずの家には電気がついていた。
遅くなる時もあるから、来るときには連絡するようにって言ってたのになぁ……なんて何度言っても聞かないのだから、今思ったところで理解してくれるはずもなく。
ドアを開け、中に入ればリビングにてあられもない格好でくつろぐ彼女。

「あ、おかえりー」
「ただいま。来るときには連絡してって言ってるのに……。あと下、ちゃんと履いてよ」
「Tシャツワンピなんだから、何も問題ないでしょ」
「問題あるから言ってるの。体冷やすよ」

こんなやり取りも、今まで一体何度しただろうか。正直な所、俺に対しても大変よろしくないことではあるので、すぐに改めて欲しいのだが……。そんな男の事情を、彼女に説明するわけにも行かず。
カバンを下ろし、荷物を片付けながら風呂の支度をしていると、無言で視線をぶつけられる。

「…………何? どうかした?」
「べっつっにー」

聞いた当初は「別に」とそっぽを向くものの、こちらが視線を外せば、すぐに浴びせられる彼女からの視線。

(俺、何かしたっけ……? それとも、何かして欲しいことでもあるのか……?)

少しの間、考えを巡らせてみるが全く思い当たるものはない。

「力くんさ、酔ってる?」
「え、そんなには……」
「ふーん、そっか」

会話が途切れると同時に、風呂の沸く音がする。彼女が何を考えてるのかはわからないけど、一先ず風呂に入ってゆっくり作戦を練るとしよう。

「俺、ちょっと風呂入ってくるから……」
「力くん」
「ッはい……」

静かに俺の言葉を遮った一言。ただ名前を呼ばれただけなのだが、それだけでも少し萎縮してしまう。

「力くん、私に言うこと……ないの?」
「えっと……あー……」
「そう、ないんだ……」

頭の中に神経を総動員し色々と探してみるものの、思い当たる節は何一つとして出てきやしない。
ゆらり、と立ち上がり、半泣きの彼女がこちらへ向かってくる。ゆっくりと、じりじりと距離を詰められ、何故半泣き!? とか無駄に怖い、とか思うことは色々あるが、とりあえず後退。
すると背中にとんっと壁の当たる感触がした。汗が一筋背中を伝う。

「力くんはさ、私のこと……嫌いなの……?」
「え!? そんなことないけど!?」
「じゃあ、なんで私に手を出してくれないの!?」

彼女の口から飛び出たのは予想外の言葉で。
顔を真っ赤にしながら俺の後ろにある壁に手をつき、逃げられないようにと捕まった。いわゆる、壁ドンという状況である。無論、こんな女の子の力くらいでは捕まえるなんて不可能なわけだが、彼女の気迫に押されて、何も抵抗出来なかった。

「ちょ、落ち着いて!」
「力くん、飲んできてるんでしょ!? なら、明日何も覚えてないだろうし、こんなチャンス他にはないじゃない!」
「俺、そんなに酔ってないから! 流石に記憶飛ばないって!!」
「うるさい! いっつもいっつも、私はこんなに力くんのことが好きなのに! 明らかに誘ってても、手出してくれないし!!」

確かに、今まで彼女が泊まりに来ても、寝室は明け渡して俺はリビングで寝てたけども!

「そんなこと、一時の感情でできるわッ……」

彼女の言葉に反論しようとすれば、唇に触れる柔らかい感触と鼻腔をくすぐる少し甘めの彼女の匂い。

「……ッ馬鹿! 悶々としちゃえ! おやすみ!!」

そんな捨て台詞を残し、俺の寝室に駆け込んだ彼女に「……馬鹿はどっちだ…………」と言った俺の呟きは、確実に届いていないだろう。
翌日、俺の記憶と彼女の記憶がばっちり残っていたので、それからしばらくの間、お互いに悶え苦しむ日々を送ることとなるのだが、そんなこと今の俺たちは知る由もない。

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