手段を変えて



さて、電話をすると決めたわけだけど。
自室の机の上にはかれこれ一時間程、私の携帯電話が置かれている。そして、その前に正座し、一時間程携帯を眺めている私。

(やると決めたじゃない! 普段の行動力を発揮するのよ! 和!!)

深呼吸を一つし、そろそろと携帯に手を伸ばす。ゆっくりとアドレス帳を開き、あ行の欄を見ていくと“縁下力”の文字。

「ええい、ままよ!」

緊張を誤魔化すために大きな声で叫び、ボタンを押す。ぷるるるる、ぷるるるるとコール音がなり、『はい?』と縁下の声が聞こえた。

「あ、あの! もしもし!」
『和泉? 珍しいな、どうかした?』
「えっと……大した用事じゃないんだけどさ、今大丈夫?」
『うん、別に大丈夫だけど?』

普通を装えているだろうか。バクバクとうるさくなる心臓を無視し、次の言葉を考える。どうしよう、なんて言うべき? 少し混乱しながらも、必死に考え続ける。

「あの……えっと……」
『何慌ててるんだよ、大丈夫か?』

電話口の向こうで、笑いながら心配してくれる縁下の様子が目に浮かぶようだ。ちくしょう! こんな些細なことにさえときめく自分が憎らしい!!

「……ッあのね! ちょっと聞いて欲しいんだけど!! 私、縁下のこッ」

ブツッ、ツーツー
意を決して言おうとしたその時に、私の耳に届いたのは電話の切れた音。呆然とする私に、これは現実だと突きつけるようになり続けるその音は、冷たく無機質だった。
その後、メールの着信音がなる。縁下ようにセットした、他とは違う特別な音だ。

“ごめん、電波が悪かったみたいで切れた。
用件なら明日聞くから。
じゃあ、また明日。”

「……電波が、悪かった……? う、嘘でしょ……?」

ゴトリ、と手に持っていた携帯を落としたが、それを拾う気力も起きなかった。今までクリアな通話をしてたじゃない……! などと思っても、縁下が電波が悪いと言っているのだから、それ以上、追求のしようがない。

「はぁ……」

返事をしなくては、とメールを読み返してみれば、目に入るのは“用件なら明日聞くから。”の一文。……これは、チャンスかもしれない。さっきは失敗しちゃったけど、今度こそは……!
胸に淡い希望がやどり、急いで返信メールを作成する。

“そっか、それは残念……!
なら、用件は明日言うね。
絶対に約束だよ!! 昼休みに言うね!
また明日〜”

誤字や脱字がないかの確認をして送信。明日こそやってやるんだから!! 気合いを入れ直して立ち上がる。目指すはお風呂場だ。

(早く寝る準備をして、明日に備えよう!)

こんなチャンスが巡ってくるとは、とウキウキ気分で自室を後にした。

[ 6/11 ]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -