エピローグ
縁下とお付き合いを初めて一週間がたった。縁下と一緒に帰りたいと希望したところ、「部活、終わるの遅いよ?」と言われたのだが、もともと演劇部は終わる時間がそれなりに遅く、少しの間待つだけでいいし、と体育館前で待たせていただいている。(もちろんのことながら、私が縁下と一緒にいたいためである )
「和泉、お待たせ。すぐ着替えてくるから」
「いいよ、好きで待ってるんだし。急がなくていいからね〜」
走って部室へ向かう縁下に声をかけておくと、後ろから視線を感じる。振り向けば、バレー部員数人がニヤニヤ顔やら、微笑ましいなぁと言いたげな顔をしながら、私たちのやり取りを見ていたようだ。
「なんですか?」
先輩もいるので、一応敬語で聞けば「いや、別に?」と木下が言う。あの体育館事件以降、私はバレー部の面々ともある程度の面識があった。
「ごめん、お待たせ!!」
息を切らせながら走ってきた縁下に、「走ってこなくていいのに〜」と言えば、「そこで変なこと口走られるのは、ごめんだからな」と失礼なことを返してくる。
私は、聞かれたことには普通に答えてしまうので、縁下が隠したい私とのおつきあい事情も筒抜けになってしまうのだ。
たった一週間で、取り立てて何かあったわけではないんだけど。
一度、縁下の着替え中に「敏夫のおかげです」とか「告白しようとしても、縁下が逃げ回ってて」とかペラペラ喋ってから、そこに関する私の信用は、地に落ちている。
「じゃあ、失礼しますね」
「お先失礼します。お疲れ様です」
挨拶をし校門から出てしまえば、あとは二人きり。少しの沈黙の後にふと、「良かったなぁ」と呟きがこぼれた。
「何が?」
「縁下とこんな風になれるなんて、思ってなかったから。当たって砕けろの精神だったしね」
へへへ〜と笑えば、そういうことか、と合点がいったような顔をされる。
「俺はなんというか……。ほんとごめん」
「いいよ、今更。縁下がヘタレなのは、今に始まったことじゃないし?」
「どういうことだよ」
二人でゆるゆるとお喋りをしながら、帰路を楽しむ。あの公開処刑(告白)は、もう嫌だとか、今日の授業は退屈だったとか。取り留めもなくぐだぐだと話していれば、もう私の家の前。
いつも遅いからと送ってくれる縁下には、感謝しかない。
「じゃね、縁下」
「また明日」
軽く挨拶を交わし、そのままいつも通りわかれようとしたけれど、なんとなく思い立ってもう一度、縁下の方を向く。
「どうしたの?」
「これからも、よろしくね。おやすみ、力」
気まぐれに名前を呼んでみたが、思ったより照れてしまう。縁下も同じようで、少し頬を染めながら目を逸らした。
「……こちらこそよろしく、和。おやすみ」
「は、初めて名前で呼ばれた……!」
走り去る縁下の背に呟くと、軽く手をあげ応えてくれた。
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