なりふり構わずに
中庭に到着早々、「話の内容なんだけど」と口を開けば、縁下が走り出し、そのまま逃げ出した。
「え!? 今日も!?」
驚きはしたものの、今日の私は今までの私と別人だ。逃げられっぱなしだと思うなよ!
走って縁下を追いかければ、ぎょっとし、そのまま逃げ続ける。このまま体育館か部室に逃げこまれれば、部活が始まるだろうし、追い続けるのは難しいだろう。
ならば、今決着をつけるべき!!
「演劇部の肺活量と声、なめんなよ!!」
縁下に向かって、腹式呼吸を使い声を張り上げる。
「縁下ァァァァァ! いつまでも逃げてないでよ! 大好きだ、バカ野郎! ヘタレ!」
一息に叫びきれば、ぎょっとして止まる縁下。
気づけば第二体育館は、縁下の2メートルほど先に迫っており、中からは、準備中だったバレー部の面々が、驚きつつも“縁下”という名前と大声に反応し様子を窺っている。
「やっと止まった……。縁下が逃げ回るから、こっちも必殺技を使わせてもらったわ……」
ぜいぜいと息をあげながら縁下に歩み寄り、唖然と固まる彼にきちんと告げる。
「もう一回、言うからね! よぉーく聞きなさい! 私、縁下のことが、異性として、男の子として、大好きなの! わかった!? もう逃げさせないんだから!!」
言い切ってから、段々と恥ずかしさが襲ってきて、顔が熱を持つのがわかる。縁下も顔を真っ赤にしていて、茹でたこみたいだった。
呆気にとられ、黙って事の成り行きを見守っていたバレー部員たちも、これが(どうみてもそうはみえないが)告白の現場であるとわかり、ざわつき始める。
仲間たちのヒソヒソと言う声にはっと気づき、縁下が我に返る。
「な……何言ってんの!?」
「バカのしたが、すぐに逃げるからでしょ!」
戸惑いと焦り、そして若干の怒りが混じった縁下の声に、思わずバカと言い返す。そうすれば、縁下は呆れたような素振りをみせ、「……バカはお前だよ! 恥ずかしくないの!?」なんて言うから、私の口も止まらない。
「大勢の前で言うのは恥ずかしいけど、この気持ちを恥じる必要はないでしょ!?」
堂々と言い切ってやれば、頭を抱える縁下。バレー部員たちは、私の反論に「おぉ……」だとか、「すげぇ……」だとか関心しきりである。
「そういう問題じゃないよ! あぁー、もう!」
「なんで縁下が怒るのよ!」
「俺から言おうと思ってたのに、男前すぎるんだよ!」
売り言葉に買い言葉で縁下が叫んだ瞬間、私もバレー部員も驚き間抜けな声をもらす。
その反応に不思議そうにする縁下の顔が、次第に先ほどの比ではないくらいに赤くなり、耳まで真っ赤に染まっていく。
「……なし! 今のなし!」
「……! 縁下……!!」
ようやく縁下の言葉に合点がいき、自分の顔がまたまた熱を持つのがわかる。へなへなと力なくしゃがみこみ、嬉しさのあまり、涙まで滲みでてくる始末だ。
あわあわと恥ずかしがりつつも、私の心配をする縁下にバレー部員たちから「ちゃんと言わなくていいのかよ〜」「いい直せー!!」などとヤジが飛び交い、とてもカオスな状況になっていく。
「さ、流石にここでは……」
先輩からのヤジでも混ざっていたのか、律儀に返事をする縁下の手首をがっしり掴み、「今、言って……! 夢かと思っちゃうから……!」とダメ元でお願いしてみると、観念したように縁下が私と目線を合わせた。
「じゃあ、ちゃんと……。和泉……さん、好きです。つきあってください」
ごくごく平凡で、なんの変哲もない告白の言葉でも、どんなロマンチックな告白より、嬉しく感じてしまう。
堪えきれずに泣いてしまったが、返事だけはきちんとしなければならない。
「……ん! もちろん……! です……!」
にっこりと精一杯の笑顔を見せれば、縁下も笑ってくれて。周りのバレー部員たちからは、自然と拍手が沸き上がった。
「なんか……すごい大事になったね……」
ぽつりと呟けば、「和泉のせいでだけどな」と返され、後日、告白の仕方について、「バカ過ぎる!」とやっぱり怒られてしまうのだった。
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