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彼女の温度 [ 1/4 ]

名字名前という少女は、周囲の人々から、クールだという評価をよく受ける。確かに、熱い人間という訳ではないのだが、ただクールというだけでもない。高校生活一年目半ば、赤葦京治は、そんな風に彼女の情報を、まとめていた。
同じ学年で、同じ部活所属。選手とマネージャーという差はあれど、関わる機会も多い。マネージャーの先輩二人からは、「名字ちゃんのこと、同じ一年同士だし、見ててあげてね!」と、言われている。 名字は、どう考えても単純な性格をしている訳ではなさそうだし、気をつけて見ているべきだろうな……と、漠然と考えていた。
そんな彼女は、一つ年上の先輩、木兎と同じ中学出身らしく、部活動中、よく木兎に絡まれている所を目撃する。中睦まじいのはよいと思うのだが、傍から見ていると、如何せん名字と木兎の相性が悪いのではないかと、ハラハラするのである。

「名字ー!! 見てたか!? 今のスパイク!!」
「はいはい、見てましたよ。いいから、練習に戻ってください」

マネージャー業務をこなしながら、適当に木兎をあしらう名字。
あの人の絡みには、正直疲れるし、ウンザリすることもある。もし、名字が仕事の邪魔に思っていたり、木兎の絡みに疲れていたりした場合、きっと大変だろう。その苦労は、想像に難くない。赤葦だって、常日頃から木兎の被害者なのだ。
木兎に疲れている場合、きっと先輩方には言いづらいだろう。そう思い、ある日の部活終わり、二人きりのときに聞いてみた。

「名字、木兎さん絡みで、なんか思ってることとかない?」
「へッ!? いや、別にないけど!?」

おかしい。普段は割と冷静な名字が、取り乱し、声を裏返し、赤くなっている。

「……急にどうしたの……。もしかして、赤葦……気づいてる……?」

言いにくそうに口ごもりながら、視線をさ迷わせ、落ち着きない様子の名字。この返事、やっぱり多少は、負担に思っていたのだろう。……と、ここまで考えて、気づく。俺の聞き方、おかしくなかっただろうか……、と。

(これじゃまるで、木兎さんに気があるのかを、問うているようじゃないか)

気づいた時には、もう遅い。名字の返事にも合点がいった。名字は、木兎のことが、好きなのだろう。

「あー……えっと……、俺が聞いたのは、木兎さんが絡んでくるせいで、仕事に支障が出てないかってこと……なんだけど……」

気まずい思いをしながら、事実を伝える。名字の顔は、さらに赤みを増していき、終いには、顔を覆ってしゃがみこんでしまった。

「なんか……ごめん……」
「…………いいよ。赤葦に、悪気があったわけでもないし」

居た堪れなくなって謝ると、ぼそぼそと早口に返事を返された。

(これは、よっぽど恥ずかしいだろうなぁ)

そんなこと、わかりきってはいるのだが、名字の様子を見ていると、再度、そう思わずにはいられない。
名字がおもむろに立ち上がり、こちらを見る。なんとなく気まずくて、視線をさ迷わせていると、「あのさ……」と口を開いた。

「さっきのでバレたと思うけど、私、木兎さんのこと、その……えっと……あの…………まあ、す、好き……なの。赤葦なら、言いふらしたりはしないと思うからさ、それを見込んでのお願い、なんだけどさ……」
「うん」
「赤葦、木兎さんと仲いいし、その、良かったら、協力……して、欲しいんだけど……」
「出来る範囲のことであれば、もちろんさせてもらうよ。俺の聞き方も、まずかったし……」
「なんか、ごめんね……」
「いや、こっちこそ……」

気まずい思いをしながら、名字の恋を応援することになったのだが。それからの日々で、赤葦は彼女に対する評価を改めることになる。
名字名前という少女は、確かに、熱い人間という訳ではない。ないのだが、ただクールということもなく、好きな人の話をされれば照れ、好きな人の挙動に、一喜一憂し。恋する乙女として、相応の反応を示すのだ。

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