コンビニに注意
午後八時頃。なんとなく甘いものが食べたくなって、コンビニへ向かう。
「ふんふんふーん」
なぜか機嫌がよくて、鼻歌なんぞを歌っているとコンビニの自動ドアが開く。と、同時にとんでもないものを目にする。
(し、志摩くん……!?)
同じクラスの志摩廉造が、俗に言うエロ本というものを買っていたのだ。
これは見なかったことにするべきだろう、そう瞬時に判断し開き続ける自動ドアから離れようとする……と志摩くんがこちらに気づいてしまったのだった。
「え、名前ちゃん!?」
「こ、こんばんはー……」
なんだか気まずくなって、目を逸らす。目を逸らした先のレジにいたのは、若いお姉さんだった。
(志摩くん、女性店員なのに買ったんだ……。そもそも18歳でもないでしょ)
軽く引いていると、「名前ちゃんは、何しに来たん?」なんて聞いてくる。
「甘いものが食べたくなって買いに来たの」
早く帰っていただこう、その一心で簡潔に、気持ち冷たく答える。
「そうなんやー。……名前ちゃん、私服も可愛らしいなぁ」
鼻の下をデレーっと伸ばしながら、ニコニコと私の服を褒めてくる。まさか、そんなことで私の先程の記憶が消せるとは思ってないだろう。
「えーと、良かったらなんか甘いもん、奢らせてくれへん?」
「…………それの口止めに?」
コンビニの袋を見ながら聞き返す。店員さんの気遣いか、袋は透けないようにされていた。
「え゛、バレてたん」
「そりゃあまあ、目に入ったし……」
そもそもバレてると思ったから、奢るなんて言ってるんでしょ……。なんて思ったが、口には出さない。
「まあ、そう言うことやし、どうやろ?」
「……いいよ、別に。誰かに言い触らす気もないし……」
「ほんまに!?」
パァっと顔を輝かせ、見るからに安心している志摩くんを見ると思わずにいられない。「そこまでバレたくないならネット使えばいいのに……」と。
ついつい出てしまった言葉に「引かへんの?」などとのたまう志摩くん。
「引かないわけじゃないけど……、男の子だし仕方ないと思うとこもあるし……」
「…………変わってんなぁ」
「じゃあね、また明日」
志摩くんの最後の一言を聞かなかったことにし、別れを告げる。そのままコンビニへ入ろうとすると、後ろから志摩くんもついて来た。
「……なにか?」
「いや、口止めとか関係なしに、なんか奢らせて欲しいなぁと思て」
「…………志摩くんこそ変わってるじゃない」
「お互い様やね」
志摩くんが笑いながら言うから、なぜだかおかしくなって笑ってしまった午後八時五分。
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