memo

 2015.06.14.Sun:12:19

「えん……ち、力! 今日放課後、ひま?」

名前で呼ぶことに未だに慣れなくて、少しどもりつつも力に声をかける。そろそろ名前呼びを始めて三週間になるのだし、いい加減どうにかしたい。こんなことでどぎまぎして、私らしくないしね。なんて話は置いといて。

「暇、だけど……どうかした?」
「あのね、私のおうちでデートしませんか……!?」

付き合い始めて大体一月。名前呼びになって大体三週間。一緒に下校することはあるけれど、デートらしいデートなんて、まだしたことはない。
始めてのデートがお家だなんて、少しおかしいだろうか。もっと定番な所の方が良かっただろうか。
そう思わないでもないが、私には力を家に呼んで、渡したいものがあったのだ。
デートという言葉を意識してしまい、お互いにどこかぎこちなさはあったものの、無事に私の家へ到着。

「上がって! お母さんたちいないし、気を使わなくていいからね」
「お邪魔します……!」

力の緊張をほぐすために言った、家に誰もいないと言う言葉は、裏を返せばこの家には今力と私の二人きりと言うことで。そんな考えに至って余計に鼓動が速くなるのを感じたけれど、そんなのを気にしていては何もできない。
自室に案内をし、お茶をだして、いざ本題へ!

「あのね、今日家に呼んだのは、渡したいものがあったからで……」
「渡したいもの?」
「これ……」

いくつかの紙をホッチキスで束ねただけの、手作り感満載の冊子を差し出す。表紙には、和泉和の取り扱い説明書と記入しておいた。

「取り扱い説明書……?」
「うん。友だちに、つきあって1か月経つのに何もないってどういうこと。今流行ってるし、自分の取説でも渡してみれば? って言われたから……。読んでくれる?」

少し不安になって聞いてみれば、力は小さく「はい……」と頷いた。

“はじめに
本品をお買い上げ頂き、誠にありがとうございます。
少し長くなりますが、取り扱い説明書を最後までお読みください。

使用上の注意
・他の製品に比べ、暴走しやすい面があります。ご注意ください。
・本製品は、恋愛ごとに慣れておりません故、時折突飛な行動に出ることもあるかと思われますが、広い心でお許しください。あまりにもひどい場合は、直接メンテナンスをしていただきたいです。
・原動力は持ち主の色々な表情です。特に笑顔を好みます。でもどんな表情でもやっぱり好きです。食物は何でも摂取可能です。
・持ち主が休みの際にはお話したり、一緒にいられたら嬉しいなって思います。
・夜の使用は現在試したことがありませんので、何とも言えません。できれば事前(具体的には二、三日前)に言っていただけると、できるだけスムーズにできるよう努力します。

保証について
・本製品は持ち主のことを非常に大切に想っています。頼りないところも多いし、馬鹿だとよく言われますが、持ち主が困っているとき、苦しいときに寄り添えるよう努力します。持ち主からも少し頼ってくれると嬉しいです。

これから、末永くよろしくお願いします。”

「これで全部……?」
「うん」
「…………」
「恥ずかしいから黙らないでよ……!」

なんだか気恥ずかしくて顔を下げると、目の前の力が突然頭を下げた。所謂土下座だ。

「ほんっとにごめん!」
「うぇ!? なんで!?」
「今までつきあって1か月経つのに、ほんとに何もできてなくて……」

申し訳なさそうに眉を下げる力に、私は慌てて弁解する。

「ちがっ、これはそういう責めてるとかじゃなくて! もっと力と仲良くっていうか、なんていうか、距離感近くできればな、みたいな……そういうアレだから……」

しどろもどろになりつつも、私の意図を伝え、力の様子を窺う。力は少し迷ってから、携帯を取り出し、カレンダーを表示させた。

「この日、なんだけど。部活オフだから……の、和さえ良ければ、どこか、その、デート……とか……」
「……ほんとに?」
「うん。誘うの遅くて、ほんとごめん……」

また頭を下げる力に、私は顔を上げさせる。そして「力がいいっていうなら、私はデート行きたいよ!」と笑顔で言うと、彼はほっとしたように息をついた。

「よかったぁ……」
「そんなに緊張してたんだ」
「そりゃまあね……」
「ね! デートの予定、たてよ!」

力の顔をのぞき込んで微笑めば、力も微笑み返してくれて。

「その前に、和はちょっと説教な」

と、取説の夜の項目について、しこたま怒られてしまった。
ちなみに、後日行ったデートは、一生忘れられないほどに幸せな時間になりました。
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