アンデットについて | ナノ


始まりについて  


※グロ注意
【足利SIDE】


「どうやら私、死なないようです」

屋敷の前で倒れていた娘はそう言った。
目を覚ましたと思えば予の顔を見て目を見開き、周りを見回した彼女。
流れるような動作で刃物を出した時は殺されると思ったが、まさか自分の首に突き立てるとは思わなかった。

「出血の量も明らかおかしいですし」

そう言って傷口を撫でる。
タラタラと流れる血が、彼女の手を汚した。
変わった作りの南蛮物の着物にも、赤いシミができる。
反対側の手にはあの見たこともない刃物。

「その方は、死にたいのか」
「……そういうわけじゃあないんですけど」

まっすぐに予の目を見つめる眼は、少なくとも絶望はしていない。
だからといって熱があるわけでもない。
何かを諦めたようでもあり、挑み続けるようでもある、不思議な瞳。

「生きてるって実感がなくてですね」

じゃあ、死んでみようかな、と。
そう言いながらもう一度白い手がなでると、傷は消えてなくなった。
よく見ると肌は荒れた様子もなく、髪はつややかだ。
しかしどこかの姫君といった風でもない。

「惰性で人生やってくよりは、さっさと死んで地獄にでも落ちたほうがいいと思ったんです。死ねなくなりましたけど」

そっと手を伸ばして首を掴む。
抗う様子もなく、されるがままだ。
力を込めればいとも容易く骨が折れる。
死んだ。と思った。
しかし解放された躯体は倒れることなく、手が不安定な頭を支える。

「ふむ、痛くはないか?」
「痛いです。それほどじゃないですけど」

ゴキンッと音を立てて首が安定する。
どうやら骨がつながったらしい。
滅茶苦茶だな、と零せば、めちゃくちゃですね、と返された。

「実感がないといったな」
「はい」
「ならば予が熱を授けよう。
元よりその方の様な者に熱を与えるため、乱世を起こしたのだからな」
「それは、どういう意味ですか」
「乱世を感じ、生死をかけた勝負に興じるといい。
ああ、しかし死ねないのだったな。さて、どうするか。
ひとまず、ここにいるといい。衣食住は保証しよう」
「……お言葉に甘えさせていただきます」

娘はきょとんと首をかしげたあと、礼を言いながら頭を下げた。

「名は何という? どこから来た?」

当たり前の問い掛けをしていなかったことに、いまさら気づく。

「私の名前は夢叶。故郷は」

そこまで言って口を一度閉じた。
黒い瞳はやはり戸惑い無く予を見つめる。

「異なる世の未来、です」

いたずらを仕掛けた子供、いやそれよりもっと黒く歪められた唇。
先程までの、気が抜けたような顔が嘘のような笑みに、ゾクリとした。
予はどうやら、この娘を気に入ったらしい。


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