Shot story | ナノ


 ただ全ては

※名前変換なし


「どうして」

この人は武将であり、それ以前に成人した男であり。
ただの女である私の手を振り払うなんて、簡単なはず。
なのに、

「さあ、ね」

松永様は苦しそうに答えた。
当然だ。私が彼の首を、締めているのだから。

私は松永様の体に馬乗りになっている。
無理やり起き上がることもできるはずなのに。
それ以前に私が彼の首に手を伸ばしたとき、この人はただ寝たふりをしていたのだ。
多少なりとも殺気を感じでいながら、あえて。

何故。

障子からぼんやりと月明かりが差し込む。
私の指がくい込む首筋は、あまりにも、白い。

「どうして」

今すぐこの手を外して、刀で斬ればいい。
婆娑羅で焼けばいい。
私を、殺せばいい。

あなたの手に落ちた私は後はもう、飽きられるしかない。
捨てられるくらいなら、器のように壊してほしかった。
それとも

「私には既に、壊すほどの価値もない、と」

視界が歪む。
頬が濡れる。
指に力が加わるのが、止まる。

「ちがうよ」

ヒュウと松永様は苦しそうに息を吸った。

「それは、ちがう」

幼子を宥めるように、優しく微笑む。
加害者は、私なのに。
彼は、被害者なのに。
私が泣いて、松永様が笑っている。

「わたしは、けいを」

その先の言葉に怯え、一気に力を込めた。
愛ゆえの愚行
(愛しています、松永様)
(だから飽きられるくらいなら)
(殺されて永遠に貴方のものになるか)
(殺して永遠に私のものに)


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