無駄な警告



同僚の黒狼・鋭牙は、俺やメガパンクと肩を並べるほどの天才だ。

政府の施設で育ち、数年前に新しい元素、シアンを発見した。

その後、様々なシアン化合物を作り出し、今もその一つの化合実験中だ。

見た目はいいほうだ。実際、PHに来てから何度か告白されているらしい。

ちなみに、全て『今それどころじゃない』と断ったそうだ。

で、なぜ俺が鋭牙についての話を引っ張り出しているかというと、

『失礼するよ、シーザー』

本人が目の前にいるからだ。

「なんだ、鋭牙。てめえも俺に文句を言いに来たのか」

先程も訳の分からない道徳をほざく馬鹿どもを追い払ったところだ。

コイツは女だし、余計に五月蝿そうだ。

『いや、違う。むしろ私は貴方の持論に強い共感を持っている』

俺の予想を裏切って、彼女はあっさりと言った。

共感している、なんて初めてで、思わず目を見開く。

『ああ、それ。問題はそれなんだ』

そう言って歩みを進め、すぐ近くまで来る。

いくらか背の低い鋭牙が俺の顔をじっと見つめた。

『貴方は、正直すぎる』

「は?」

意味がわからない。顔に(もちろん声にも)それが出ていたのだろう。

『ほら、また』

彼女は言った。

『人間、嘘がうまいほうがいいんだ。

貴方は、感情や考えを隠す気もないんだろうが』

それではいけない。

静かに鋭牙が首を横に振る。

『万人に理解される思考でないことを自覚しているなら、隠すべきだ。

世界は、異端を排除するようにできている』

黒い瞳が一瞬だけ、悲しそうに、心配そうに見えた。

『それじゃあ』

言いたいことを言いたいだけ言って、彼女は出て行った。

その言葉の意味を理解するのは、もう少し先の話。

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