02




お嬢さまの専用メイドとしてゾルディク家に来てから早1週間。


その肝心のお嬢さまとは未だにお会いできてないけれど、あの眼鏡野郎のSMプレイさながらのスパルタ教育にはだいぶ慣れ……



「………ない、普通にキツいわ」



現在、午前4時。


昨日も昨日とてなかなかハードで、やっとの思いで勝ち得た就寝はつい2時間ほど前。


容赦なしにジリジリと鳴り響く目覚まし時計が酷く恨めしい。





「…オハヨーゴザイマァース」


「なんだそのだらけきった挨拶は。もっとシャキッとしろ」


「…はぁーい」


「あ?」


「…ハイ。すみませんちょっと調子に乗りましたごめんなさいだから早朝からの暴力反対!!」


「暴力じゃねェ躾だ」


「っひぎゃ!!」



馬鹿みたいに素早い手刀が、脳天を直撃する。


これで少しは目ェ醒めんだろ。


なんてイヤミな顔して言い放つ眼鏡野郎改めサトウ。


初めは渋々言うことを聞いていたけど、教育や躾と称してすぐ実力行使してくるサトウに、わたしの反抗心は増していく一方だ。



……………あれ…サトウだったっけ…?


うーん……サトウ……


ん、…イトウ……?


…サイトウ…は、やっぱりちょっと違う気がするから………カトウ…?


カトウ……カトウ……………


……うん、そうそう確かカトウだ。



「ゴトーだクソ見習い」


「おおっと!そう何度も食らってたまるかってのよっ…て、ひぃっ!!?」



カトウ(暫定)の腕が再び振り上げられたのを見切り、攻撃を避けようと右に跳ぼうとした瞬間、カトウがまさかの足払い炸裂。


私が右に避けることを完全に予測していたかのような、タイミングも強さも角度も完璧な足払い。


そんな見事すぎる足払いで私の身体は、空中でこれまた見事に2回半の横回転を決めた。


まぁ着地は顔面からっていうお粗末極まりないものだけど。



「い゛っっっだぁぁあ!!!」



今絶対鼻折れた。


だってバキッって、


バキッってえげつない音聞こえたし。



「馬鹿野郎、犠牲になったのは床の方だ」


「え…?」



のたうち回るのを止めて身体を起こしてみれば、大理石の床には数十センチのひび割れ。


え、えっ、大理石に勝つとかわたしの顔面どれだけ丈夫なのなんで無傷なの



「部分強化の能力……いや、ただの硬か」


「…コウ?なにそれ?」



コウ…硬……?


多分念の類なんだろうけど、基礎の四大業くらいしか覚えていないわたしには、いまいちよく理解できない。



「なんだ、無自覚で使ってんのか」


「…?」



そうか、なんてひとりで勝手に納得してないで、教育係ならそれくらいしっかり教えて欲しいものだ。


もしかしてこの眼鏡野郎、暴力的な指導以外できないんじゃなかろうか。



「教えてやってもいいが、まずその床を補修しろ」


「……今まであえてツッコまなかったけど、人の心いちいち読まないでくんない…!?」


「ください、だ。てめェこそいちいち敬語忘れてんじゃねぇ」


「カトウさん人の心いちいち読まないでくださいプライバシーの侵害ですセクハラですついでにパワハラもひどいですあんた一体どんな性癖お持ちなんですか変態」


「よし分かった、てめェは今日一日飯抜きだ」


「そんな殺生な…」



お嬢さま、わたしちょっとめげそうです。




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