5.




「イルミちゃんっ…」



駆け寄りながら、そのまま勢いに任せてイルミちゃんに抱き付く。


はしたないと思われたっていい。


だって、本当に会いたかったんだから。



「イルミちゃん…ずっとずっと会いたかった…!」



会わないうちにだいぶ背が大きくなったらしいイルミちゃんの首に腕を回して、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。


会えなかった時間を埋めるくらいの勢いと力で思いきり抱きついていれば、少し間を置いてから、



「……うん、オレも会いたかった」



なんて言ってイルミちゃんも私の背中に腕を回して抱きしめ返してくれた。


昔から変わらない男の子みたいな一人称が、なんだかすごく懐かしい。


身長も伸びて、声も少し低くなったみたい。


長かった黒髪もばっさりと短くなって更にボーイッシュになったけど、こうやって私が抱き付けばちゃんと抱きしめ返してくれる優しさは変わっていない。



「………イルミ、***。再会が嬉しいのは分かるが、そろそろ席に着け」


「ぇ、……っあ…!」



シルバさんの一言で、夢心地だった感覚が一気に薄れていく。


そうだ、


イルミちゃんと会えた嬉しさですっかり浮かれていたけど、うちの両親だけならいざ知らず、シルバさんもキキョウさんもいる前で私はなんてことを…



「す、すみません…!あの、私…」



慌ててイルミちゃんから離れて、シルバさんとキキョウさんに向かって頭を下げる。


急に席を立って人様の家の中をばたばたと走るなんて、褒められたものじゃあない。


頭を下げながら、呆れられてしまったんじゃないかとひやひやしていれば、そんな心配とは裏腹に部屋には笑い声が響いて。



「ッハハハ!いやぁー見せ付けてくれるなぁ」


「もう、***ったら…っふふ」


「まぁまぁまぁ!!何年経っても仲良しねぇ〜!」


「え、あ、あの……」



叱られて当然の行為をしてしまったはずなのに、なぜこんなに賑やかな雰囲気なのだろう。


もっとこう、ピリピリとした空気になるかと思ったのだけど…。



「マ、ママ…えっと、お説教とかは……」


「お説教?そうねぇ……ふふふっ、確かに淑女らしい振る舞いじゃあなかったわね。うちの娘がごめんなさいね、シルバさん、キキョウ」


「あらあらいいのよぉ!***ちゃんがイルのことをそんっっっなに好いていてくれたなんて、私本当に嬉しいわ!!!ねぇアナタ?」


「あぁ、イルミも満更でもなさそうだからな。……今回の事も話が早い」


「…お話、ですか?」



そういえば私は、今回のゾルディック家訪問の目的をまだ聞いていない。


今まで、キキョウさんがうちに訪ねてくることは何回もあったけれど、こうして両家当主、妻や子どもが一堂に会するのは今日が初めてだし、かなり珍しいことだと思う。


だからこそ内容は知らなくても、この訪問には何らかの目的や意味があるということだけは、私もちゃんと理解していた。



「お前達ふたりの動向を見つつ、少しずつ話を進める予定だったが…その様子なら問題ないだろう」


「えぇ!こんっなに仲良しなんだもの!もう決めるしかないわっ!!」


「そうよねぇ。そろそろ決めちゃいましょうか」


「いやぁ、こんなに上手くまとまるなんて。ふたりも異存は……って、そんなこと」


「聞くだけ野暮かしらねぇ?おほほほ!」


「ふふっ、キキョウったら」

……なんの話だろうか。


今唯一頼れそうなイルミちゃんの様子を横目でうかがえば、どういうわけか眉間には無数の皺が浮かんでいて。


とても声をかけられるような雰囲気じゃない。


盛り上がる両親達とは反対に、会話についていけない私はただ戸惑うしかなくて。



「ん…?どうした***。なにか思うことでもあるのか」


「え…あ、あの…思うところと言いますか…」



困惑する私に気付いてくれたらしいシルバさんが声をかけてくれるけど、前提にある話を分かっていないから、なにをどう伝えていいのやら。



「…まさか教えられてはないのか」


「え……?」


「今回こうして集まった理由を、だ」


「は、はい…知らない、です。……ごめんなさい」



シルバさんの気迫に萎縮してつい謝れば、なんで謝るんだ、と苦笑いされてしまった。



「おい、娘への伝達くらいしっかりしろ」


「あらやだわたしったら…すっかり言い忘れてたわぁ…」


「ママ……」



つい数時間前にも同じような台詞を聞いた気がするんだけど…。


天然が過ぎる自分の母親を笑うべきなのか怒るべきなのか。



「ごめんなさいね。婚約なんて大事な話、もっと早く伝えておくべきだったわぁ」


「もう、ほんとよママ…婚約なんて大事な………



…………………………え?」



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