1.
末娘である私を猫可愛がりするパパとママが与えてくれた、広い広い快適な部屋。
複数の家庭教師と怒涛のレッスンを終えれば、あとはこの部屋で何をするわけでもなくのんびりだらだらと過ごす日々。
外に出て働かずとも物やお金に不自由することのない私は、いわゆる箱入り娘というもので。
ぬるま湯みたいな環境でべったべたに甘やかされての生活も悪くはないけれど、なんだかそれも、最近ではひどく退屈に思える16歳の今日この頃。
…せめて友達のひとりでもいれば、毎日が楽しくなるのだろうけど。
この部屋に違わずだだっ広い家でほぼ幽閉状態の生活を送る私には、仲の良い使用人はいても、生憎今は友達なんてもの、ひとりもいない。
「昔は、いたんだけどなぁ…」
そう、確かにいた。
あの子との出会いは、今となってはもう記憶も朧気なくらい小さい頃のこと。
ママの親友であるキキョウさんが、この家を訪れる度に連れてくる自分の子ども。
その子はちょうど私と同い年で。
親同士が話している間、いつもふたりで遊んでいた。
その子はかなりクールというかほんとうにサバッサバしていて、挙げ句表情の変化がかなり乏しい子だったけれど、
いろんな人に常に笑顔を向けられ、ただ甘やかされて育った私には、その子の無愛想ともとれる態度がとても魅力的に見えて。
勝手に憧れてたりしたっけ。
なんだかんだ、小さいながらに仲は良かったと思う。
けれど、13才を過ぎた辺りから、なぜかその子はぱったりと家に来なくなってしまって。
ひとりで訪ねて来たキキョウさんにあの子はもう来ないのかと聞いても、困ったような顔をして『ごめんなさい』と言うだけで。
私の短い人生の中で唯一友達と呼べるあの子とはもう、かれこれ3年ほど会っていない。
「はぁ…会いたいなぁ……」
なんとなくやるせなくなって、ふかふかのベッドに身体を投げ出せばスプリングがキィキィと悲鳴を上げた。
まぁなんて失礼な、そんなに重くはないはずなんだけど。
「…元気かなぁー…イルミちゃん……」
すぅーっと透き通るくらい真っ白な肌、ぱっちりくりくりの大きな目、つやつやさらさらな黒髪。
昔から反則過ぎるくらいに容姿が整っていた【彼女】はきっと、この3年で更に美しく成長しているに違いない。
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