13.




イルミちゃんと手を繋いだままパパ達の待つ和室へと戻れば、それはもう盛大に冷やかされてしまった。



「まぁまぁまぁ…!!やだわぁふたりとも!!もうすっかり婚約者ねぇ」


「ふふ、ほんと、両親の前で見せつけてくれちゃって」


「いやぁ、若いっていいなぁ」


「問題も障害も無さそうで何よりだ」


「そうねぇ本当になによりだわぁ…これじゃあ初孫の顔を見るのも時間の問題かしら!」


「ふふ、キキョウったら。それはまだ気が早いわよ」


「……あ、あははは………」



実はほんのついさっきまでイルミちゃんの性別を勘違いしてました、なんて口が裂けても言えないようなこの雰囲気。


祝賀ムード全開な両親達を見ていたらなんだかいたたまれなくて、助けを求める意味で隣のイルミちゃんに視線を向ければ、子どもはまだいいよね、なんて言って頭を撫でられた。


違う、違うのイルミちゃん…


撫でてくれるのは嬉しいけど、そうじゃないの……



「まぁ孫はまだ先でいいとして……先ずは***の引っ越しの予定からかな」


「そうねぇ、今のうちに決めておいた方がいいわね」


「とりあえず日取りは…うん、シルバ達の都合に合わせようか」


「あぁ、悪いな。お前達も忙しいだろうに」


「ははっ、名家ゾルディックほどじゃないさ」



あはは、うふふ、なんて両親達の和やかな笑い声が部屋に響く。


対して、イルミちゃんと私は顔を見合わせて目を瞬かせる。



引っ越しってなんのことか知ってる?


ううん、なにも聞いてない。



なんてアイコンタクトで意思疎通をしていれば、顔が近いとパパに引き剥がされた。



「キスならふたりきりの時にしなさい。パパまだそこまでの覚悟はできてないから」


「きっ……!?ち、ち、ちちち違うよ!!…というかそれ以前に…引っ越しって誰の…?」


「なぁに言ってるの、***のお引っ越に決まってるじゃない」


「やっぱり私の……」


「そうよ?入籍自体は当分先になりそうだけど、その前にゾルディックのお家に慣れておいた方がいいでしょう?」


「う、うん…慣れた方がいい、とは思うけど……」


「やだわ***ったら、そんなに戸惑ったりして…」



なにか問題でもあるかしら?なんてほんとに不思議そうに小首を傾げてみせるママには、この繊細な子ども心は到底理解できないだろう。


今までの人生の大半を過ごした家を、予告なしにいきなり離れることになったこの衝撃と戸惑いは、一体どこへやればいいのか。



「…でっ、でもほら、突然一緒に暮らすってなるとゾルディックのお家にも迷惑なんじゃ……」


「まぁ***ちゃんったら!迷惑だなんてそんな水くさいこと言わないでちょうだい?あなたはもう私達の娘も同然なんだから」


「き、キキョウさん…!」



なんとか話をもみ消そうとしてみるけど、キキョウさんの見事な言葉のカウンターによってあえなく阻止される。


それどころか、娘も同然とまで言ってもらえたからか逆にほだされそうになってしまった。


ふう…恐るべしキキョウさん……



「で、さっそく日取りのことだけれど…パパとイルミの予定が揃って空いている日は…そうね、早くて明後日かしら」


「えっ……」


「急かすようで悪いのだけど…どうかしら?」


「わたし達は明後日でも構わないわ。荷物の運び込みは少し遅れるかもしれないけど……まぁ、大丈夫よね!」


「そうねぇ、きっと大丈夫だわっ!」



あははうふふと再び響き出す笑い声に、若干の目眩を感じる。


恐い。引っ越しを明後日をに指定してくるキキョウさんはもちろん恐いけど、それをすんなり受け入れるママも十二分に恐い。


婚約の話もそうだったけれど、この、当人の意思がことごとくスルーされる現象は一体いつまで続くのだろうか。



「はぁ………」


「…なに。引っ越し、嫌なの?」


「…うーん…嫌というか……」



正直に言えば、嫌なわけではない。



「…なんか、ちょっと不安かなぁって…」



そう、きっと不安なんだ。


婚約のことを含め、あまりにも突然色々なことが決まりすぎて、少し戸惑ってしまっているんだと思う。


でも、このくらいであたふたしていたら、名家ゾルディックに嫁いで生活するなんてこと、到底無理な気がする。


…うん、甘えてたらだめだ。



「……ごめんねイルミちゃん。変なこと言って。私、ゾルディックに相応しい人になれるように…」


「別に」


「…え、?」


「別に、弱音でもなんでも、オレになら吐いていいと思うけど」



一応、もう婚約者なんだし。


そう言いながら、イルミちゃんはまた頭を撫でてくれて。


イルミちゃんの優しい言葉と頭を撫でてくれる手の温度が、なんだかひどく胸に沁みる。



「……イルミちゃん」


「ん?」


「…ありがとう、もう大丈夫」


「…そ、ならよかった」



言いながらもまだ頭を撫で続けてくれるイルミちゃんは、ほんとうに優しいと思う。


この人と、こんなに優しい人と少しでも長く一緒にいられるのなら、引っ越しも案外悪くないかも知れないなぁなんて、


そう思ってしまう私は、ちょっと現金すぎるのだろうか。



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