12.




並んでソファーに座りながら、手を繋いで。


この2年間どんなことがあったとか、なにを学んだとか、今はなにが好きだとか、


会えなかった時間を埋めるようにとりとめもない話をたくさんしていれば、ふいにノックの音が響いた。



「イルミ様、***様。旦那様方がお呼びです」


「あぁ、わかった」



扉越しの執事さんに短く返事を返したイルミちゃんは、繋いだ手を離して、ソファーから立ち上がる。



「あ……」


「ん…?どうかした?」


「う、うん……えっと、ほら!もう2時間も経ってたみたいだから…早いなぁって思って…」



…言い訳にしてはちょっと苦しいかもしれない。


けどまさか、正直に言えるはずもない。


手を離されたことが寂しいなんてそんな子どもみたいなこと、恥ずかしくてとてもじゃないけど言えない。



「あー…もうそんなに経ってたんだ」


「うん…なんだかあっという間だったね」


「ほんと、そう思う。……昔からさ、***といると時間がすごく早く感じるんだよね」


「え…」


「体感時間の緩急なんて錯覚だって分かってるんだけどさ、恋ってわりとすごいね」


「い、イルミ…ちゃん……」



……真顔でそんなこと言うの、ずるい


恥ずかしいからって言いたいことを我慢している私が、なんだかバカみたいだ。



「…そろそろ行こうか。父さん達待ってるだろうし」


「う、うん…そうだね…」


「ほら、***」


「………え、……?」



さっきと同じく唐突に差し出された右手に、さっきとは違う意味で戸惑う。


触れ合うことへの羞恥とかそういうのじゃなくて、心を見透かされたような気がして、なんだか落ち着かない感覚。


もしかしてイルミちゃんは、私の気持ちに気付いていたのだろうか。



「あ…えっと、………」


「なに、繋ぎたくない?」


「ち、ちがうよ!…ただ、なんで…その……」


「なんでって言われても…オレが***と手繋ぎたいって思っただけなんだけど」


「っ……」



あぁまた、


照れもしないでそんな台詞をさらっと言ってのけるなんて。


ほんとうに、もう



「…イルミちゃん、ずるい」


「……なに、いきなり」


「私だってその………………」


「その?」


「そ、その…い、イルミちゃん、と………っイルミちゃんと、手を…その、………繋ぎたい、なぁ……なんて、…思ってたり……」



……言った、


言ってしまった。


肝心な最後の方は羞恥心からかなり小さな声になってしまったけど、聞こえてないなら聞こえてないでもういっそそれでいいかなぁなんて。


手を繋ごうなんて昔は普通に自分から言えていたのに、イルミちゃんを男の子だと認識した途端、なんだか言い辛くなった気がする。


イルミちゃんはどうして顔色ひとつ変えずにこんなことが言えるんだろう。


ほら、今だって。


私の精一杯の言葉を涼しい顔で聞き流して………



「…………………。」


「…………イルミちゃん?」



聞き流されたというか、反応がない。


私に手を差し出したままピクリとも動かなくなってしまったイルミちゃんは、一体どうしたのだろうか。



「イルミちゃーん…聞こえて…っ、ひ!」



見開かれた目の前でとりあえずひらひらと手を振ってみれば、差し出されたまま動かなかったはずのイルミちゃんの手が、素早い動きで私の手首をがっちりと捕らえる。


イルミちゃんが突然動くものだから、驚きのあまり妙な声まで上げてしまった。



「…***」


「な、なぁにイルミちゃん」


「なんで顔逸らしてるわけ。ちゃんとこっち向いて」


「い、いっ今はちょっと無理…!」


「どうして?」


「どっ、ど、どうしてって言われても……その…」



イルミちゃんの明け透けな言葉や態度といい、さっきの自分の尻すぼみな台詞といい、どれもこれも恥ずかしことこの上なくてイルミちゃんの顔をまともに見られない。


…なんて情けないこと、言えるわけがない。



「……もしかしてさ、恥ずかしがってるだけ?」


「っ…、そ、そんなこと……!」



そんなこと、ない訳がない。


むしろどんぴしゃ大正解だ。



「ち、違うの、その…だから……えぇっと、つまり………」


「言い訳するだけ無駄だと思うけど。***分かりやすすぎだし」


「うっ……」


「顔に全部出てるし、あとどもりすぎ。まぁ昔からそうだけど」


「……返す言葉も…ありません…」



淡々とした言葉が、心にぐさぐさと刺さる。


感情がすぐ表情や態度に出てしまう癖は、私のちょっとしたコンプレックスだ。


表情の変化が乏しいイルミちゃんが少し羨ましくなるくらいには、気にしているのに。



「…というかさ、素直に恥ずかしがってくれた方がオレとしても嬉しいんだけど」


「……嬉しい?」


「うん。なんかさ、男として意識されてるみたいで、わりと嬉しいんだよね」


「っ、……」



なんてまた、こっちが恥ずかしくなるようなことを言うイルミちゃんは、ほんとにずるいと思う。


だってそんなに穏やかな顔で微笑まれたら、否定なんてできるわけないのに。



「…ほら、そろそろ行こう。これ以上待たせたら母さんがまたヒステリー起こしそうだし」


「あ、はは…それはちょっと困っちゃうね…」


「でしょ。あれ治めるの、結構大変なんだよね」



なんて言いながら、掴んでいた腕を離して、さり気なく手を繋いでくれるイルミちゃんの優しさに、また心臓が跳ねた。


どきどきしてすごく恥ずかしいけど、不思議と嫌じゃない。


どうにかしてこの気持ちを少しでもイルミちゃんに伝えたくて、イルミちゃんの手を少し強く握り返してみれば、お返しと言わんばかりに指を絡められた。



「…………。」


「…なに、恥ずかしい?」


「……ちょっと、…恥ずかしい……かも…」


「…うん、オレも」


「…っあはは、ほんとだぁ。顔、ちょっと赤いね?」


「***ほどじゃないけどね」



ちょっと恥ずかしいけど、それ以上に幸せ。



一緒にいるだけでこんなあたたかい気持ちになれるなら、



イルミちゃんとならきっと、



きっと、幸せになれる気がした。



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