10.




最近産まれた弟は、親父の、ゾルディックの血を色濃く継ぐ証と言わんばかりの銀色の髪をしていた。


そしてその弟、キルアが産まれた瞬間から、誰もが将来ゾルディック家の当主になるのは彼だと認識するようになった。


もちろん、オレだって例外じゃない。


でも、これからのゾルディックにとってプラスになる存在であるキルアを愛しいと思う反面、



なんとなく、疎ましくも感じていた。





「…イルミちゃん、元気ない」


「……そう?別にいつも通りだと思うけど」


「嘘。確かにイルミちゃんいつも無表情だけど、元気があるかないかくらいは分かるよ」


「…なんでそんなに変なとこだけ鋭いかな」



いつもは鈍いくせに、なんてつい悪態をつきそうになったけど、そんな言葉はぐっと飲み込む。


八つ当たりなんて子供っぽいことはしたくない。



「ねぇイルミちゃん、私でよかったらなんでも言って?大事なお友達の悩みなら私、なんだって聞くから!」


「友達、か……」



暗殺者に友達は必要ない。


……なんて、そういう思想が出来上がる前に人の懐に勝手に入り込んできた***は、オレにとって少し特別だ。


…だからだろうか、


親父にも母さんにも言えなかったことでも、***になら言える気がして。



「………、弟が生まれてからさ、なんていうか…たまに胸の辺りがもやもやする」


「弟…って、この前生まれたキルアくんのこと?」


「うん、キルのこと。ミルが生まれた時はなんともなかったんだけど」


「うーん………キキョウさんがキルアくんに夢中だからやきもちやいてる、とか…?」


「さすがにそこまでマザコンじゃないけど」



うん、でも…やきもちか……


確かにそれっぽい感情だけど…肝心なのは、何に対して妬いてるかってことだろう。


母さんがキルアに構いっきりになるのは当然だって理解してるし、別にどうとも思ってはいない。


ゾルディック家の次期当主候補であるキルアが特別視されるのは、至極当然なことで………



「…あ、……」



…………そうか、


そういうことか



「…?イルミちゃんどうしたの?」


「んーなんていうか…原因?…なんとなく分かった気がする」


「え、ほ、ほんとに…?」


「ほんとに。それでさ、ちょっと***に聞いてほしいことがあるんだけど」


「う…うん!なんだかよく分からない気もするけど…わたしでよかったらなんでも言って?」


「うん、じゃあ遠慮なく。キルがさ、ゾルディックの後継者にるんだ」


「…………え、…?」



そう、キルはゾルディックの後継者になる。


そして、今までゾルディック家の長男として、後継者候補として育てられてきたオレはその枠から外れ、ゾルディックの次期当主たるキルの教育をしていくことになったんだ。


暗殺一家の長男として、その後継者候補として、血反吐を吐く…なんて表現を生ぬるく感じる程の努力を積み重ねてきた。


オレはゾルディックそのものを重視しているし、自分が積み重ねてきたものが、ゾルディックの未来を担うキルへの教育として役立つのならそれも本望だと思う。



…………でも、やっぱり


まだ割り切れない部分があるのも、事実だ。



「…………えっと…キルアくんが、シルバさんの跡を継ぐ…っていうことだよね…?でもキルアくんってまだ生まれたばっかりだし………あれ……?」



なんでも言って、なんて言っていた***だけど、オレの言葉が持つ意味を捉えることができないらしく、首を捻りながらうんうんと唸っている。


まぁ、今の言葉だけでオレの心情を察することが出来るのは、鋭い大人くらいのものだろうけど。



「今すぐじゃなくて将来的にってこと。オレと父さんが、キルを立派な当主に育てるってわけ」


「あ、そういうことなんだ…。……でもそれ、なんだかすごいね…!」



きらきらと目を輝かせながらキルを誉める***を見て、あのもやもやした感覚が一気に強くなる。


あぁそう、これだ、


嫉妬と同じ様な、心の奥底からくる激情。


今まで自分に向いていた愛情や期待の込もった感情が、全てキルに向くことを正当だと思う反面、酷く耐え難いとも思ってしまう。


この感情を理解するためとは言え、どうして***にキルのことを話してしまったのか。


母さんと父さんの目が完全にキルの方を向いてしまっている今、オレを見てくれるのは、大事な友達と慕ってくれる***しかいなかったのに。


あぁ、ほら、この輝いた目はきっと、キルに対する賛美や期待で埋め尽くされて……



「ほんと!イルミちゃんってやっぱりすごいね!」


「…………は、?」



……なに、いきなり


というかなにそのきらきらした笑顔。


ついさっきのすごいって言葉は、キルに対するものじゃなかったのか。



「キルアくんが立派な当主様になれるように、イルミちゃんが教育してあげるんでしょう?すごいなぁ…私と同い年のはずなのに…」



すごいすごいと興奮気味に連呼する***の発言や言動の全てが理解できなくて、思考が鈍くなったような感覚に陥った。


だって意味が分からない。


どう考えたって、後継者候補から外されたオレより、生まれた瞬間後継者と確定したキルの方に興味や関心がいくのが普通だ。


なのに、どうして***は、


オレのそんな混乱を知ってか知らずか、***は更に言葉を続ける。



「私ね、未だにお兄ちゃん達にいろいろ教えてもらうんだけど……その度にね、お兄ちゃんお姉ちゃんって、すごく頼りになるなぁって思うの!…尊敬っていうのかな、こういうの」


「尊敬……?」


「うん!だからね、当主様になるキルアくんもすごいけど、いろんなことを教えてあげるイルミちゃんだって、負けないくらいすごいよ!」


「っ、……そう。オレは別に、すごいとは思わないけど」


「イルミちゃんが思わなくても、私からしたらすごいの!」


「……あっそ」



にこにこと笑いかけてくる***を直視できなくて、わざと冷たい返事をして、視線を逸らす。


だって、これ以上見てたら泣いてしまいそうな気がしたから。


キルじゃなくて、オレ自身を真っ直ぐ見つめて笑いかけてくる……いや、笑いかけてくれる***は、傷心のオレにはちょっと眩しすぎる。




「…イルミちゃん、またなにか悩みがあったら、こうやって話して?私、ほんとにただ聞くだけでなんの力にもなれてないけど、イルミちゃんがいつもみたいに笑ってくれるなら、なんでもするからね」




だから、ひとりで悩まないで?



大好きだよ、イルミちゃん。




なんて、はにかみながら笑ったりして、



あぁ、ほんとに、



馬鹿じゃないのか




「……オレも、好きだよ」




…いや、たった今、好きになってしまった。



***が馬鹿みたいに明るく笑うから、



オレだけを真っ直ぐ見つめてくれるから、




多分もう、友達なんて枠には収まりきらないくらいに



オレは、***のことが好きだ。



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