7.
「適当に座っていいよ。飲み物は?紅茶でいい?」
「う、うん、紅茶がいいな」
「分かった、ちょっと待ってて。今用意させるから」
「うん…」
ぱたん、と部屋の扉が閉まる。
あれからぐいぐいと腕を引かれ連れてこられたイルミちゃんの部屋は、なんというか…こう、無駄なものが無いとでも言うんだろうか。
同い年の女の子の部屋とは思えないほどシンプル極まりない。
「ほんと、なんにもない…」
殺伐とした部屋をじっくりと見渡してから、ぽつりと置かれた大きなソファに座ってみる。
うん、期待を裏切らないくらいふかふか。
家具もいいもの揃いなんて、さすがはゾルディック家。
「それにしても……」
婚約、……婚約かぁ…
なんでみんなあそこまでノリノリなんだろう。
同性婚っていつの間にあんなにメジャーになったんだろう。
……イルミちゃんも、なんで受け入れるみたいなこと…
「……はぁ、止めよう」
今は何を考えたってきっと堂々巡りだ。
婚約云々は一回忘れてしまおう。
それより今は、イルミちゃんとの再会を素直に楽しむべきだ。
「お待たせ」
ごちゃごちゃとした思考を捨てて、ふかふかのソファを堪能していれば、イルミちゃんが戻ってきた。
その片手には、ティーセットの乗ったトレー。
「あれ、?執事さんは…」
「入って来られると邪魔だから」
部屋の前で追い返した。
なんて言いながらローテーブルにトレーを置いて、イルミちゃんは手際よくカップに紅茶を注いでいく。
「砂糖は2つでいい?」
「うん」
「ミルクは少なめ?」
「う、うん…」
「はい、どーぞ」
「ありがとうイルミちゃん」
差し出されたティーカップを取って、一口。
うん、甘さもちょうどいい。
…イルミちゃん、なんで私の好みが分かるんだろう……
「なんでって、昔もそうだったから。なんとなく」
「……今の声に出てた?」
「顔に出てた。そういうとこも変わってないみたいだね」
イルミちゃんの纏う雰囲気が、なんとなくさっきより少し柔らかくなった気がする。
まぁ、表情と声のトーンは相変わらず一定なままだけど。
「…イルミちゃんも変わってないね」
「そう?」
「うん、相変わらず表情がないところとか」
「…さり気なく貶された気がするんだけど」
「ふふ。あ、でもイルミちゃん外見は結構変わったよね」
「ごまかし方も相変わらず…はぁ、まぁいいや。成長期なんだし、3年も経てば外見もそれなりに変わるだろ、普通」
「それはそうなんだけど…」
隣に座るイルミちゃんを改めてじっくりと観察してみる。
勢い余って抱き付いたときも思ったけど、3年前に比べ背もぐんっと伸びて体格がよくなってる気がする。
こうして隣に座っていても、目線がかなり違うし…
長かった綺麗な黒髪もバッサリと切られ、今では肩につかないくらい短くなって。
ボーイッシュな風貌にも一段と磨きがかかったみたい。
…………というか、なんだろう、
「…なんだかほんとに男の子みたい」
「や、オレ男だけど」
「え、」
「え?」
「……え?」
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