好きになった人は、凄腕のハンターでした。


しかもその人は世界中の海を股に掛ける、いわゆるシーハンターです。


実力も人望も兼ね備えた男気溢れるその人に恋する女性は、きっと五万といるはず。


でもみんなきっと、その人の行動範囲の広さや居場所の特定の難しさにぶち当たって諦めてしまうのでしょう。


えぇそう、普通の女性なら諦めてしまうでしょう。


ただ、人一倍図太いわたしはそうはいきません。


だから、覚悟してください、







「こんにちはーモラウさん!!今日も今日とて素敵ですねグラサン似合いますね好きです大好きですお付き合いしてください!!」


「おー、毎日毎日よく飽きねぇな」


「飽きるわけないです!!大好きなモラウさんに会うためなら世界中どこでも追いかけちゃいますから!!」


「世の中じゃお前みてェなヤツのことストーカーって言うんだぜ」


「やだぁモラウさんたら!ストーカーなんかじゃないですよ!」



そう、わたしは決してストーカーなんかじゃあない。モラウさんに会いたい一心で世界中を飛び回る、言うなれば…



「ら、ららっラブハンターってやつです!!」


「照れるくらいなら言うな」



や、やだ、モラウさんにツッコまれちゃった…!


もしかして今のが巷でいう夫婦漫才ってやつじゃ…



「ま、お前の気持ちはよォく分かった。ラブハンターって言うならとりあえずハンターライセンス取ってこい。話は全部それからだ」


「わぁー全然わかってもらえてない気がするんですけどっ!!……でもわかりました!!モラウさんがそうおっしゃるならハンター試験受けてきます!!」


「おう、行ってこい」



うまーくあしらわれた気がしなくもないけれど、このくらいじゃ全然めげない。


それに、一ツ星ハンターであるモラウさんに見合う女になるためには、ハンターライセンスは手に入れておいた方がいい気がする。


よし、そうと決まったらさくっとハンターライセンスをとりに行ってこよう。


実力的には難しいかも知れないけど、恋する乙女に不可能は無いのだ。



「はぁ…待っててくださいモラウさん…!!」



不肖***、必ずあなたに見合う女になって帰ってきます!!









――…‥2ヶ月後



「モラウさんモラウさん!!見てくださいこれっ!!ハンターライセンスです本物ですだからわたしとお付き合いしてください!!」


「おし、じゃあ次は裏試験だな」


「へ?裏試験…?」


「暇そうなプロハンター探して修行つけてもらってこい」


「…なんだかよくわからないけど、とりあえず了解です!!プロハンターさん探してきます!!」





――…‥数ヶ月後



「モラウさんモラウさん!!念習得できました!!晴れて免許皆伝です!!」


「おォそうか、これでお前もプロハンターか」


「そうですとも!!だからそろそろ是非ともわたしと真剣にお付き合いを!!というかもういっそお付き合いを前提に結婚を!!」


「よし、仕事やるから行ってこい。プロハンターたるものこれからはきびきび働け。いいな?」


「……愛しのモラウさんがくださるお仕事なら喜んで!!」


「よォし、行ってこい」





――…‥2年後



「モラウさんモラウさん!!これ見てください!!お仕事の成果が認められてわたしも晴れて一ツ星ハンターです!!」


「あァ、よくやったな。それは正真正銘お前自身の努力の成果だ」


「も、モラウさん…っ!!じゃあじゃあ!!いよいよ本気でわたしとのお付き合いを……い、いや…わたしは結婚からでも構わないんですけど」


「そんな実力確かなお前に手伝ってもらいたい仕事があるんだが…やってくれるか?」


「……そ…そんな風に言われて、モラウさんゾッコンラブなこのわたしが断れるとお思いですかっ!!いいですよ、いいですともわたしでお役に立てるならもうなんでもいいです!!」


「おう、頼んだぞ***」








――…‥数年後



「モラウさんモラウさん、先月モラウさんに頼まれたお仕事、全部終わりました」


「おォ、いつも悪いな」


「いえいえ」


「……………」


「……………」


「………………」


「………………」


「……おいおい、いつものアレはどうした」


「え…」


「このタイミングでやれ付き合えだなんだ言うだろ」


「…そう、でしたっけ」


「いつもいつもうるせェくらいの大声で叫んでただろうが」



…………散々はぐらかしておいてまぁ…なんて言い草だろうか。


最初に告白してからもう数年経つのに、未だイエスかノーの返事すら貰えていない現状。


この間なんてナックルくんに、



「こんだけ粘って無理ならいっそ養子にでもしてもらえばいいんじゃねーんスか」



その方が案外お似合かも知れねぇし、なんて言われてしまった。



端から見てもどうやら完全に脈ナシらしい。


しつこさとしぶとさが売りのわたしだって、脈もなにもないことがこれだけ明々白々なら、いい加減諦めようかと思っていたところだ。




………うん、いい機会かもしれない。


モラウさんへのアタックはこれで最後にしよう。



「…モラウさんモラウさん」


「なんだ?」


「好きです、大好きです」


「ずっと前から好きだったけど、プロハンターになってこうしてモラウさんと一緒にお仕事してるうちに、もっと、もっと大好きになりました」


「…なのでわたしと、お付き合い、して、ください…」


「…………」


「…………」


「………………」


「………………」


「……あー……、あれだ***。次の仕事のことだけどな…」



………、まただ。


話、逸らされちゃった。


あーあ、やっぱり最後までだめだったかぁ。


可能性なんて殆どないって自覚あったんだけど、



………でも、なんだろう



「…ふ、うう…っうわぁぁぁぁあああん!!!!」


「っうるっせ!!おまっ、なにいきなり泣いてんだ!」


「だ、だって告白したのにモラウさんがはぐら、かす、からあぁぁぁ……!!」


「だァーっ!!うるせぇうるせぇ!!分かったから泣くな!」


「そ、んなに、怒らなくたっていいじゃないですかぁぁぁぁ…ひ、っくぅ、う、うわぁぁぁぁぁあん!!」



失恋やらモラウさんを怒らせてしまった悲しみやらで涙が止まらなくなってしまう。


いい年して子どもみたいに泣きじゃくる姿は、さぞ滑稽だろう。


あぁ、こんなんじゃモラウさんに振り向いてもらえないのも当然なのかもしれない。



「ふ、ぐ、…ううっ………」


「……ハァー…もういい、そのまま泣いてろ」


「!っ……う、…くっ…」



呆れ、られてしまった。


…やだ、やだやだ、これ以上モラウさんに嫌われたくない。


そう思うのに、というかそう思うほど、涙はどんどん溢れてくる。




「…泣きながらでいいから、とりあえず聞け」


「……、へ…?」



ふいに、俯いた頭に温かい感触。


わたしの頭をすっぽりと包み込んでしまえるくらい大きなそれは、おそらくモラウさんの手だろう。


……呆れたんじゃ、なかったのだろうか


さっきの怒声とは逆の、ひどく優しい手つきにどう反応すればいいかわらかなくなってしまう。



「次の仕事の話だ。一度しか説明しねェからよく聞いとけ」


「っは、はい……」



流れてくる涙を拭って、必死に返事を返す。


失恋してもモラウさんを尊敬する気持ちは変わらないし、恋人にはなれなくてもいいから、モラウさんの傍にいたい。


だから、どんな状況だろうとモラウさんのくれるお仕事はちゃんとこなしたい。



「書類仕事…って言えばまぁ書類仕事だ。書面の内容をよく読んで、お前自身が納得したらサインしろ」


「はい………っ、て、……え?」



モラウさん手渡された用紙を広げたところで、目線も手も思考も、全て固まる。



なんで、



どうしてモラウさんがこんな、



こんな婚姻届、なんか



「…………モラウさん……わ、渡す書類…間違えて、ますよ…?」



動揺を抑えて必死に絞り出した声が、ひどく情けない。


知らなかった


モラウさんに、結婚を考えるようなひとがいるなんて


一度は抑えた涙が、また溢れそうになる。


…我慢しなきゃ、我慢しなきゃ、


ちゃんとお仕事、しなきゃ



「…相変わらず鈍いなお前」


「え……」


「こんな大事なモン間違って渡したりしねェよ」


「…え、…え…………………っええぇぇぇぇぇ!!?」



わたしの叫び声にモラウさんが顔をしかめるけど、今はなんにも気にしていられない。



「ど、どどどどういうことですかモラウさん…!!わっわたしその、ふ、ふられたんじゃなかったんですか……!?」


「なに言ってんだ、一回もフっちゃいねェぞ。ただ、お前がハンターとして一人前になるまで保留にしといただけだ」


「なっ……!」


「オレの居場所を突き止めて、更に世界中追いかけ回せるだけの知恵と根性があるんだ、お前ならいいハンターになれるとずっと思ってたからな」



だから、一人前になるまでは修行と仕事に集中させようと決めてた、
なんて、


そんなこと、



「そ、そんなこと言われたら、……期待、しますよ…?」


「期待も何も、それがオレの答えだ」



いつもみたいに余裕たっぷりな顔して笑って、婚姻届を指差すモラウさん。


どうやら直接言葉にはしてくれないみたいだ。



「ただ、強要はしねェ。お前がそこにサインしてもいいと思うなら、してくれ」


「……ずるいなぁ、モラウさん…」



わたしの答えなんて分かりきってるくせに、そうやって選ばせるみたいなこと言って。



「あ、はは……ほんと…っ、ず、ずるい、です…!」


「おーおー、泣くのか笑うのかどっちかにしとけー」



顔面ひでェことになってるぞ、なんて意地悪なことを言いながらモラウさんはわしゃわしゃと頭を撫でてくれる。


ただ頭を撫でられただけなのに、それが嬉しくて嬉しくて、今度こそ涙腺が決壊しそうだ。



「っモラウさんモラウさん!!」


「ん?」


「…大好きです!!ずっとずっと好きでしたそのキラリと光るグラサンもほんとに素敵ですねわたしもういっそモラウさんのグラサンになりたいくらいですやっぱり大好きです!!だから……わたしと結婚してください!!」



いつもの調子でそう言い切ると、モラウさんは楽しそうに笑って、


あぁ、と一言、



たった一言だけど、これ以上ないくらい幸せな返事をくれた。



Love is grand !!

恋は偉大な、乙女の原動力




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