あくびがでそうなくらいにのどかな昼下がりのカフェ。


今日は休日ということもあってか、店内はかわいいく着飾った女の子達やきらきらしたカップルで賑わっていた。


…いやはや、お洒落なお店にはそれに見合った美少女が多いこと多いこと。


あ、ほら、特にあの子なんか。


ふわふわした雰囲気ですんごくかわい…



「…デート中によそ見か?」


「え……あ、」



少し不機嫌そうな声で話掛けられてハッする。


そうだった、今はデート中だ。



「お前…気抜きすぎ」


「ごめんごめん。あっちに今世紀最大級の美少女がいたからつい…」


「まったく…もっと他にマシな言い訳あるだろ」



目の前に座る男…もとい私の恋人クロロは、コーヒーカップを片手に呆れたようにため息をついた。


久しぶりにふたりの休みが重なって、いつぶりかのデートの最中だというのに、私達の間に漂う雰囲気はお世辞にも甘いとは言えない。


クロロとは、かれこれ5年以上付き合っている。


出会いはそう、お互いの会社の近くにあるちょうどこんな感じの綺麗なカフェ。


昼休みにランチをしようと入ったそこで偶然知り合って、それからその店で何度も会うようになって。


そしてまぁ紆余曲折、昼休みの逢瀬を続けるうちに自然と付き合うことになり、早5年。


親しい関係を何年もずるずると続けてきた結果、今ではお互いに対する遠慮も殆どなくなってしまった。


デート中のよそ見も、私がその無遠慮な関係に甘えてしまっていることが原因だ。



…かといって、ときめいたりドキドキしたり……なんてことがなくなったわけじゃない。


クロロがどう思っているかは分からないけど、私は未だにクロロの何気ない仕草や言葉によくときめいてしまう。


ほら、例えば今だって。


長い脚を組んで優雅にコーヒーカップを傾ける彼を見ているだけで、こんなにも胸が高鳴る。


ほんと…悔しいくらい絵になるんだから。



「…よそ見の次は凝視か?」


「そうねー再確認してたの。クロロは相変わらずイケメンだなーって」


「はいはい、そりゃどうも」



見惚れていた、なんて今さら素直に言えるわけもない。


かと言って少し茶化すように言えば、慣れた態度で軽く流されてしまった。



「……で、返事は?」


「へ?」



いきなり変わった話題についていけなくて、つい間の抜けた返事をしてしまった。


私のそんな様子を見て、クロロの眉間に少し皺が寄る。



「そ、そんな恐い顔しないでよ……へ、返事って一体なんの…」


「プロポーズの」


「あっ、…あー……」



視線を逸らし歯切れの悪い言葉を漏らせば、クロロ表情は更に歪む。


怒ってる…というよりは呆れ果てているようだ。


まぁ、そんな反応も当然といえば当然だろう。


だって、数ヶ月前にプロポーズされてから今まで「考えさせて」以外なんの返事もしなかった上にこんなあやふやな反応をしてしまったのだから。



「…その様子じゃまた、いい返事は聞けそうにないな」


「ご、ごめん…」


「謝るなよ。仕事、まだ辞める目処も経たないんだろ?」


「!…う、うん」



【仕事】という単語に少し過剰に反応してしまった。


だってその通りだったから。


私がクロロに返事をできないでいる理由。


それは私が【仕事】を辞められないでいることに他ならない。



「仕事が忙しいのも知ってる。結婚する気が少しでもあるなら、今はそれだけでいい。急かすようなこと言って悪かった」


「クロロ…」


「オレも、今は仕事でなかなか手が空かないからな。だから、ゆっくり考えてくれ」


「うん…」



あぁ、私はなんて幸せ者なんだろう。


こんなに自分を理解して想ってくれる人、そうそういない。



「待たせっぱなしでごめんね。それから…ありがとう」



結婚を渋っても喧嘩することも別れることなくこうして付き合い続けることができるのは、全部、クロロが我慢してくれているおかげだ。


本当に、感謝してもしきれない。



でも、こんなに優しい人だからこそ、結婚なんてできない。


だってクロロは知らないから。


彼の知る私…平凡なOLだ、なんていうのはただの一面でしかない。



私の本職は、暗殺だ。



昔、ひょんなことで人を殺してしまってから、そのままずるずるとそっちの世界にはまっていってしまった。


そんな私が、こんなに素敵な人と結婚なんてできるわけがない。


クロロには今まで通り、普通のサラリーマンとして平和に暮らしてほしいから。


「ふっ…酷い顔だな」


「え…」


「眉間と目元、皺寄ってるぞ」


「え…、やだ、そんなまじまじ見ないでよ…!」


「いいだろ?そんなしかめっ面も割と好きなんだ」


「なっ、な……っ!」


「ちなみに、そうやって赤くなった顔も嫌いじゃない」



そんな優しい顔してその台詞は、反則だ。


結婚できないなら、別れたほうがきっとクロロのためになる。


そんなこと、分かっているけど。


こんな他愛ない、けどすごく愛しい時間を失ってしまうのかと思うと、どうにも決心がつかなくて。


またしばらくは答えなんて出せないまま、私結局また、クロロに甘えてしまうんだろう。




嘘吐き+吐き








―――……・・




眉間に皺を寄せ、なにかに悩むような素振りを見せているのは、付き合ってかれこれ5年になる恋人。


***はオレが結婚の話を持ち出すと決まってバツが悪そうな顔をして、言葉を濁す。


こいつがプロポーズを承諾しない理由?


そんなのは明白だ。



「謝るなよ。仕事、まだ辞める目処も経たないんだろ?」



鎌をかけるようにそう言えば、***の肩が面白いくらい跳ねた。


あぁ、相変わらず分かりやすいな。


本人はこれで隠し通せてるつもりなのだから、余計に笑えてくる。


しかも5年も付き合って、未だにオレの本職を見抜く気配もないとくれば、本当に傑作だ。


こちら側の住人とも思えないほど緩い思考や仕草は、危なっかしくて見ていられない程だ。


人を殺す時も迷いこそ無いが素人同然の手捌きだったり、

周囲への警戒なんて皆無だったり、

念の存在すら知らなかったり、


本当に見ていられなくて、バレない程度に手助けしてしまったことも多々ある。


流石に過保護すぎるとも思ったが、放っておけば***は確実に死んでいただろう。


そしてオレが手助けしたことで***は今、実力以上に有名になりつつある。


守りたい、なんて柄じゃあないが、そろそろ傍に置いた方が安全だろうと思ってプロポーズした。


が、***は相当悩んでいる様で、なかなかいい返事を寄越さない。


こっちから正体を明かしてやってもいいが、ただ素直に明かす、なんてのはつまらないだろう。


それに、眉間に皺を寄せながら一生懸命悩む姿は、嫌いじゃない。


どこか微笑ましさを感じるその様子を、出来ればもう少し見ていたいとも思う。



だから、オレは待つよ。


お前が全て気付くまで。




吐き+嘘吐き



(とは言っても、当分かかりそうだな)

(…?なんのこと?)

(お前が鈍感すぎるって話だよ)



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